№46 ヨルダン:死刑を9年ぶりに執行
2026年6月21日付の政府系メディア『Petra』は、刑事訴訟法第359条に基づき6名の死刑囚の絞首刑が執行されたと報じた。これは2017年3月以来9年ぶりの執行となる。今般、刑が執行された死刑囚が関与した事件は以下である。
・2018年8月、アンマン西方19キロ地点で開催されていた「フヘイス・フェスティバル」付近で、パトロールをしていた治安部隊と憲兵隊に対しテロ攻撃を行い、憲兵隊2名を殺害。その後、アンマン西方27キロのサルトでテロ事件の容疑者を捜索していた治安部隊員4名を殺害(この事件で「サルト・テロ組織」に属する2名が死刑)。
・2022年12月、マアーンで警察のパトロール隊を待ち伏せて攻撃し、マアーン警察署の幹部であった准将を殺害。
・2014年、麻薬取締作戦の任務にあたっていた伍長を殺害(麻薬の密売人が死刑)。
・2017年、ザルカーの公園の捜索作戦にあたっていた准士官を殺害(麻薬の密売人が死刑)。
・2018年11月、麻薬取締作戦の任務にあたっていた麻薬取締局所属の中尉を殺害(麻薬の密売人が死刑)。
なお、2017年3月には15名の死刑囚に対して死刑が執行された。そのうち10名はテロ関連事件で有罪となった者であった。残る5名は、男女関係のもつれからの凄惨な殺人、少年を強姦のうえ口封じのために行った殺人、強姦によって妊娠させたうえ堕胎させるため暴行を行い、最終的に胎児を取り出すために腹部を切開し、その結果女性を死亡させた事件等で有罪となっていた。2017年に死刑が執行された時期、ヨルダンでは刑法第308条の廃止を求める声が高まっていた。同法は、性的暴行の加害者が、被害者と結婚すれば処罰されないと定めていた。
評価
ヨルダンでは、長期にわたり死刑執行が停止された後、治安や社会情勢をめぐる政府の意思表示として、死刑執行が行われることがある。
今般、刑が執行されたのは、治安機関・軍関係者を殺害したテロ事件の死刑囚と、麻薬取締作戦に抵抗して捜査員を殺害した麻薬密売人であった。これは、テロによる治安機関への攻撃と、麻薬密輸・密売、およびそれに伴う暴力を許容しないという、ヨルダン政府の強い意思表示だとみられる。
ヨルダン・メディアでは近年、ドローンや電子誘導式気球を使用した麻薬密輸を国境地帯で阻止したとする報道が相次いでいる。アサド政権期のシリアでは、麻薬「カプタゴン」の生産・密輸が大きな問題となり、ヨルダンはシリアから湾岸諸国へ向かう密輸ルートの経由地として位置づけられてきた。一方、2025年4月17日付の『Petra』は、シリアのシャイバーニー外相が、ヨルダンとの間で麻薬・武器の密輸に対処するための共同努力を強化する意向を示したと報じた。これは、2024年12月に誕生したシリア新体制が、麻薬密輸対策を重要課題の一つとして位置づけていることを示している。しかし、アサド政権時代に形成された密輸ネットワークは残存しているとみられ、2026年にも気球やドローンを用いた密輸の摘発が続いている。ヨルダン国内に流入する麻薬は国内で消費されるだけでなく、ヨルダンを経由して湾岸諸国など他地域へ密輸されているとみられる。
ヨルダンは、現在、シリアとの関係を強化し、紅海と接するヨルダン南部のアカバからシリアを経由しトルコへと抜ける経済回廊を構築しようとしている。また、2026年6月14日には、トルコのウラルオール運輸・インフラ相が、ヨルダン、シリアを経由してトルコとサウジアラビアを結ぶ鉄道を3~4年以内に建設する方針であると明らかにした。また、ウラルオール運輸・インフラ相は、サウジ以外の湾岸諸国もこの計画に将来的に加わり得ると述べた。同構想が実現されれば、ヨルダンは湾岸地域、紅海、地中海を結ぶ、物流の重要な結節点となる。
今般の死刑執行の直接の背景には、イスラーム主義系のテロ組織による国内テロと、麻薬密輸・密売に伴う治安機関への攻撃を許さないという、ヨルダン政府の断固とした姿勢がある。他方で、ヨルダンがシリアとの関係再構築や、トルコ、シリア、サウジアラビアを結ぶ物流回廊構想に関与しようとしていることを踏まえれば、ヨルダンを麻薬の経由地にしないという姿勢を国内外に示す意味もあったとみられる。
【参考】
「トルコ:サウジアラビアと現代版ヒジャーズ鉄道構想を推進」『中東かわら版』No.45。
(主任研究員 平 寛多朗)
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