№45 トルコ:サウジアラビアと現代版ヒジャーズ鉄道構想を推進
2026年6月9日、トルコのウラルオール運輸・インフラ相は、サウジアラビアのリヤドでジャーシル運輸・物流サービス相と会談した。ウラルオール運輸・インフラ相は、両国間の道路輸送の重要性に触れ、2012年以前には相互輸送件数が年間2万件に達していたが、地域情勢の影響により、現在はその水準を下回っていると述べた。そのうえで、トルコとしては、両国間の輸送協力を当時の水準まで回復させ、さらにそれを上回る規模へ拡大することを目指すと説明した。また、トルコはシリア、ヨルダン、イラクを経由するルートの動向を注視していると述べ、これまでにイラク経由でトルコからサウジアラビアに至る2度の試験輸送を実施し、その結果、このルートの実行可能性が確認されたと強調した。さらに、両国を結ぶ鉄道接続が重要であるとして、高速鉄道システムおよび鉄道車両分野での協力に言及した。
会談後、両国は鉄道分野と物流サービス分野での協力に関する二つの覚書に署名した。鉄道分野では、技術仕様、信号・通信システム、デジタル化、安全・保安、研究開発など、鉄道に関わる広範な分野での協力が明記された。一方、物流サービス分野では、物流拠点の建設、運営・管理、経験共有、共同事業の発展に向けた協力が盛り込まれた。
覚書締結から5日後の6月14日、ウラルオール運輸・インフラ相は、トルコとサウジアラビアがヨルダン、シリアを経由して両国を結ぶ鉄道を3~4年以内に建設する方針であり、他の湾岸諸国もこの計画に参加する見通しであると明らかにした。同大臣によれば、この鉄道は将来的にオマーンまで延伸される可能性があり、実現した場合、ホルムズ海峡を経由しない陸上貿易路としての活用が想定され、同海峡の混乱に伴う物流上の支障を緩和する手段になると強調した。
評価
今般のトルコ・サウジアラビア間の合意は、2026年4月以降、トルコがシリア、ヨルダン、サウジアラビアとの間で進めてきた道路・鉄道ルート再接続の流れのなかにある。4月7日、ウラルオール運輸・インフラ相は、ヨルダンのカターミーン運輸相、シリアのバドル運輸相とアンマンで三カ国運輸相会談を開き、ヒジャーズ鉄道の復活を含む運輸分野での協力を強化する三者覚書に署名している。サウジアラビアとの合意により、トルコ、シリア、ヨルダンを結ぶ構想は、サウジアラビアおよび湾岸方面を含む交通回廊に発展する可能性がある。
トルコにとって、この構想は欧州と湾岸を結ぶ通過輸送の拠点として自国の役割を高める意味を持つ。シリア内戦で、トルコからシリアを経由して湾岸方面へ向かう陸上ルートは長期間機能不全であったが、シリア情勢の変化を受けてトルコは対湾岸ルート再建に注力している。
サウジアラビアにとっては、ヨルダン、シリア、トルコ経由で、欧州方面へ向かう北向きの物流路を確保する狙いがある。これは、湾岸と欧州を結ぶ経済回廊となるだけでなく、紅海やホルムズ海峡情勢が緊迫するなかで、代替輸送ルートの確保につながる。湾岸産油国だけでなく、エネルギーを輸入する国々にとっても、陸上の代替ルートを確保する重要性は高まっている。
ヨルダンにとっては、アカバ港の役割強化が重要である。ヨルダンが広域物流の中継地となるには、アカバ港を起点に、シリア・トルコ方面へ抜ける南北ルートの整備が鍵となる。ヒジャーズ鉄道が復活し、トルコと接続されれば、ヨルダンはアカバ港に加え、シリア経由で地中海・トルコ方面へ向かう輸送路を持つことになる。これは、同国の物流安全保障を高めるうえでも意味を持つ。
この構想は、イスラエルを経由しないルートである点でも注目されている。トルコのボラト通商相は、地域におけるイスラエルの影響力低下が、政治・経済面での連帯の強化とともに、中東、湾岸、トルコ南部に繁栄と安定をもたらすと発言した。これはトルコが、イスラエルを経由しない交通回廊の形成を、この構想の効果の一つと見なしていることを示唆している。
シリア、ヨルダンを経由し、イスラエルとUAEの双方を通らないこのルートは、2023年に米国、インド、EU、サウジアラビア、UAEなどが発表したインド・中東・欧州経済回廊(IMEC)に代わる案、あるいは競合する案とも受け止められている。IMECは、インドから湾岸、イスラエル、欧州を結ぶ構想であるが、トルコは同構想に含まれていなかった。また、IMECの進展は、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化が前提であったが、ガザ情勢を背景に交渉は暗礁に乗り上げている。これに対し、トルコはイラクとの「開発の道」構想や今回のヒジャーズ鉄道構想を通じて、自国経由での湾岸・欧州間の物流回廊の整備を進めている。
今回の合意をIMECやイスラエルへの対抗とする見方は、トルコの閣僚による政治的発言や、域内外の論者の受け止めに基づく部分が大きい。だが、合意の中心は、あくまで運輸・物流協力である。そのため、現時点では、この構想を直ちに反イスラエルの政治的な枠組みとみなすのではなく、物流・エネルギー安全保障上の必要性と、地域政治における対イスラエル意識が結びついた動きとして捉えるのが妥当であろう。
「ヨルダン:「ヒジャーズ鉄道」への動きと安全保障」『中東かわら版』No.7。
「ヨルダン:トルコとサウジをつなぐ壮大な構想」『中東トピックス』No.T25-11。※会員限定。
「ヨルダン:シリアとの経済的関係強化の背景」『中東トピックス』No.T25-02。※会員限定。
(上席研究員 金子 真夕)
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