中東かわら版

№44 イラン:2026年サッカーW杯のイランの試合で革命前の旗が振られる

 日本時間6月16日、サッカー・ワールドカップのイラン代表チームは米ロサンゼルスでニュージーランドと対戦し、2対2で引き分けた。

 試合の行われたSoFiスタジアムの内外では、現在のイラン・イスラーム共和国の旗を振って代表チームを応援するイラン人の姿が見られた一方、「ライオンと太陽」のエンブレムがあしらわれた革命前のイラン国旗を振って現イラン・イスラーム共和国への抗議を表明するイラン人たちも多くいた。中には、米国やイスラエルの旗を振り、両国による対イラン攻撃への支持を表明する者たちもいた。

 試合前日にはスタジアムの外で、革命前の王制でシャー(王)だったモハンマド・レザーの息子レザー・パフラヴィーの写真を掲げる者たちによるデモも行われ、イスラーム共和国体制を支持する者とのにらみ合いもあったようだ。

 FIFAの規定では、「政治的、攻撃的、及び/ないし差別的な性格の横断幕や旗、ビラ、服装、その他道具」をスタジアム内に持ち込むことは禁じられているが、今回この規定は遵守されなかったようだ。革命前のイランの国旗をスタジアムに持ち込むことを禁じたFIFAの決定に関し、カリフォルニア州でFIFAに対する訴訟が起こされたことが影響したのかもしれない。イラン・サッカー連盟はFIFAに対して、同代表チームのワールドカップ参加の条件として、イランの国旗に対する尊重を求めていた。

評価 

 ロサンゼルスには、1979年の革命後に米国に移住したイラン人ディアスポラの最大のコミュニティがあり、「テヘランゼルス」と呼ばれている。ロサンゼルスには、30万人から60万人のイラン系住民がいるとされ、その大半が現イスラーム共和国体制に反感を抱いている。彼らの多くは、他の移民とは対照的に、イランに厳しい姿勢を取るトランプの支持者とされる。

 ただし、米国・イスラエルによる対イラン攻撃への立場は様々で、イラン人コミュニティの間には分断も生じているという。サッカー・イラン代表チームを「ナショナル・チーム(ティーメ・メッリー)」として応援するかどうかも分裂しており、彼らをイラン人代表として応援する者もいれば、「イスラーム共和国代表」であって「国民代表」ではないとして、応援しない者、さらには対戦相手を応援する者までいる。こうした態度に関し、米国・イスラエルによる対イラン攻撃で在外イラン人たちの望むような結果(体制転換)が得られなかったことへの欲求不満を、代表チームにぶつけていると批判する者もいる。

 イラン人ディアスポラ内の分断には、宗教的な側面もあると思われる。2016年国勢調査によると、イランの人口約7050万人(現在は9千万人を超えていると推定)のうち、約99.4%はイスラーム教徒で、キリスト教徒、ゾロアスター教徒、ユダヤ教徒他は1%に満たない。その一方で、ロサンゼルスのイラン人コミュニティには、宗教マイノリティの割合が不釣り合いに大きいとされる。特に、「テヘランゼルス」(ウェストウッド)の東に位置するビバリーヒルズには、イラン系ユダヤ教徒が多いという。スタジアムの内外で、革命前のイランの国旗に加えてイスラエルの国旗を振っていた人たちの中には、こうしたイラン系ユダヤ教徒が含まれていた可能性もあるだろう。

 前回の2022年ワールドカップ・カタル大会では、11月にイラン・米国戦が行われ、国内外の多くのイラン人が米国の勝利を喜んだとされる。女性へのヘジャーブ強制に反対する抗議活動で、当局による弾圧が行われ多くの犠牲者が出たことで、イラン人たちが代表チームを「国民代表」ではなく「モッラー(坊主)代表」とみなしたためである。

 イランと米国・イスラエル間の戦争終結が発表された直後に行われたイランとニュージーランドの試合に対して、国内のイラン人たちがどのような態度を示したのかはいまだ伝えられていない。戦争によるナショナリスティックな感情の高揚に加え、米国に滞在できないなど代表チームが受けている「差別的」な待遇への同情(イラン人の間には「判官びいき」に似た心理が存在する)により、国内のイラン人の間で前回大会とは異なった反応が見られるかもしれない。

(研究主幹 斎藤 正道)

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