中東かわら版

№22 チュニジア:軍は中立性を維持すると国防省が声明

 チュニジアのマルズーキー元大統領が軍に政治的局面の打開を期待する発言を行う中、2026年5月21日、国防省は公式サイトで軍の中立性を強調する声明を発表した。国防省の声明は以下である。

 

軍組織とその指導部を政治的駆け引きや競り合いへと押しやり、その中立性と独立性に疑念を抱かせようとする度重なる試みに対し、国防省は、国軍が規則に基づく共和制の軍隊であり、中立、国家の法律の尊重、軍の諸規則を完全に遵守しつつ、祖国、その独立、領土の一体性を守る義務を担っていることを喚起する。

また国軍が今後も軍の理念を維持し、各兵士が愛国精神と自己犠牲の下で行動し、国家の至高の利益に奉仕するため、名誉と誠実さをもって義務を遂行し続けることを改めて強調する。

 

 同日、『al-Jazira』は、国防省の声明を取り上げ、同声明が具体的にどの勢力に向けたものであるかは明らかにされていないと指摘した。そのうえで、5月12日にマルズーキー元大統領(在任期間:2011年12月~2014年12月)がフェイスブックページに投稿した演説の内容を掲載し、国防省声明の背景に元大統領の発言があった可能性を示唆した。

 元大統領は演説の中で、サイード大統領が「不誠実な選挙」を通して権力を維持し、任期を延長する可能性について指摘し、民主主義の道筋を回復するための民衆運動「ブーアジージー2」について言及していた。さらに、元大統領は、国家の主権が現在の政治において脅かされていると述べたうえで、軍に対し「国家の主権と尊厳を守る歴史的役割」を果たすように求めていた。

 サイード大統領は2019年に大統領に就任すると、政治機能不全や汚職への対応を掲げ、2021年7月に当時首相であったマシーシー首相を解任し、議会の活動を停止した。議会は停止されたまま2022年3月に正式に解散された。議会停止期間中、2021年9月の大統領令117号により、議会の立法権は大統領に移され、大統領が法令で統治する体制となった。

 また、2022年7月には、大統領権限を大幅に強化する新憲法案が国民投票で承認された。同憲法は、大統領を行政権の中心に位置づけ、議会の権限を弱めたほか、戦争または差し迫った危険により大統領選挙を実施できない場合、大統領任期を延長できる規定を含んでいた。

 主要野党の多くがボイコットする中、2022年12月と2023年1月には議会選挙が行われ、大統領主導の政治プロセスに賛同する議員が議会を占めることになった。

評価 

 今般のマルズーキー元大統領の異例とも思える発言は、反サイード派が制度内で現在のサイード政権に対抗しにくくなっている現状を示唆している。2022年に議会が解散された後には、当時議会第1党であったイスラーム主義政党ナフダ党や、アビール・ムーサー率いる自由立憲党などによる、サイード大統領に対する抗議活動や声明が頻繁に報じられていた。また、ナフダ党を含む複数の政治勢力は「救国戦線」を形成し、反サイード勢力の一角を担っていた。しかし、2023年4月にはナフダ党のガンヌーシー党首が、同年10月にはアビール・ムーサーが逮捕・収監され、いずれも現在まで釈放されていない。ガンヌーシー党首の逮捕後には、ナフダ党の事務所が閉鎖され、主要幹部への訴追も進んだことで、党活動は大幅に制限された。

 このような流れの中、チュニジアでは反体制派が弱体化し、その一部が軍に政治的局面を打開する役割を期待せざるを得ないほど、政治空間が狭まっているとみられる。国防省が軍の中立を強調したことは、軍が政治的局面を打開する主体となる可能性を否定するものであり、少なくとも現時点では、サイード大統領の権力集中を政治制度外から抑制する有力な手段がなくなったことを意味している。

 他方で、チュニジアを取り巻く経済状況は好転していない。チュニジアの統計局によれば、2010年5月時点の失業率は約13%であったのに対し、2025年第4四半期の失業率は15.2%であった。実質GDP成長率も、2010年の3.5%に対し、2025年は2.5%にとどまった。少なくとも失業率と成長率を見る限り、現在のチュニジア経済は「アラブの春」直前より良好とは言い難い。実際、2026年5月16日には、悪化する経済状況と反体制派への弾圧拡大に抗議する数百人規模のデモが首都で行われたとチュニジアのメディアで報じられている。なお、マルズーキー元大統領が言及した民衆運動「ブーアジージー2」の「ブーアジージー」とは「アラブの春」のきっかけとなった青果商の若者の名前であり、マルズーキー元大統領は、「アラブの春」後に発足した新体制下で選出された初代大統領である。

 サイード大統領は就任後すぐにコロナ禍に直面した。しかし、コロナ禍が終息した現在、同大統領の経済運営に対する国民の評価はより厳しくなり得る。現時点でデモの規模は限定的であるが、経済状況がさらに悪化すれば、国民の不満が高まり、それを抑えるための抑圧的手法が一層強まる可能性がある。

(主任研究員 平 寛多朗)

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