№17 リビア:国内最大規模の石油精製所が、武力衝突で操業停止
2026年5月8日、リビアの首都であるトリポリから西へ約40~50キロに位置するザーウィヤで、武力衝突が発生した。リビア国内の主要報道では、衝突した当事者は報じられていない。一方、ヨーロッパを拠点とする『Euronews』は、今回の武力衝突について、隣国チュニジアへの燃料や商業物資の密輸をめぐる「ギャング」同士の衝突との見方を示している。
この衝突はザーウィヤ石油施設の近くで発生し、複数の砲弾が同施設内に着弾した。これを受け、ザーウィヤ製油所では非常事態が宣言され、操業停止が発表された。(※10日に操業再開)。ザーウィヤ製油所は、日量30万バレル規模のシャララ油田とパイプラインで接続される、日量12万バレルの精製能力を有するリビア最大の稼働中の製油所である。なおこの衝突では、ブレガ社が所有する航空灯油タンクや電力総公社の発電所も被害を受けた。
同日、ザーウィヤ合同治安室は、司法当局の承認を得て、軍・治安部隊と連携して犯罪者や指名手配者の拠点を標的とした大規模な治安作戦の開始を発表した。また同治安室は、全ての措置が検察官の監督下で行われており、リビアの法律に則っていることを強調した。

(グーグルマップを元に筆者作成。赤印が被害を受けたザーウィヤ製油所。緑の点がトリポリ。)
評価
今般の衝突は、混沌とするリビア情勢を映し出している。ザーウィヤは、リビア最大級の石油精製所を有し、リビアの国内燃料供給にとって極めて重要な都市である。そのため、2011年のカッザーフィー政権崩壊後にリビア情勢が不安定化すると、同地の石油・燃料インフラ、港湾、沿岸道路、密輸ルートをめぐり、諸勢力の衝突が繰り返されてきた。トリポリとチュニジア国境を結ぶ沿岸道路沿いに位置するザーウィヤ周辺では、密輸・組織犯罪の拠点化も進んだ。今般の衝突も、こうした地域の利権や影響力をめぐる武装集団間の対立が背景にある可能性がある。このような実態の見えにくい武装集団・犯罪組織による衝突を防ぎきれていない点に、トリポリを拠点とする国民統一政府の統治能力の限界が表れている。
また、ザーウィヤの治安維持や犯罪者の捜索を担う主体も、国民統一政府の通常の警察・軍事機関そのものではないとみられる。武力衝突を受けて大規模な治安作戦を始めたザーウィヤ合同治安室は、2022年にシッディーク・スール検事総長の監督下で設置された機関である。設置の背景には、国民統一政府に属する警察機関が上昇する犯罪率に十分に対応できず、ザーウィヤ住民の不満が高まっていたことがある。同治安室の法的位置づけは必ずしも明確ではないが、今般の作戦でも、ザーウィヤ治安局、軍・治安部隊、検察・司法当局との連携や法的承認が強調されていることは、同治安室が国民統一政府と無関係な組織ではない一方で、同政府の一元的な指揮命令系統に属する通常の治安機関とも言い切れないことを示唆している。いずれにせよ、同治安室の存在は、ザーウィヤの治安が国民統一政府の警察や軍によって、一元的に担われているわけではないことを示している。
現在、リビアはトリポリを拠点とする国民統一政府とベンガジを拠点とする東部政府に分裂している。このような状況の中、トルコは、国民統一政府と東部政府の双方を自国の軍事演習に参加させることで、リビアの再統一を後押ししようとしている。しかし、ザーウィヤでの衝突が示唆するように、国民統一政府は、自らが実権を握る地域においても、一元的な統治制度を実現できているわけではない。そのため、軍の統一が直ちにリビアの再統一につながるかは不透明である。各地域に存在する武装勢力の解体や、治安を担う「準国家組織」の国家機構への統合が、リビアの再統一には不可欠であることを、今般の衝突は改めて示している。
(主任研究員 平 寛多朗)
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