中東かわら版

№16 シリア: 大統領官房長官、情報相、農業相の交代

 2026年5月9日、アフマド・シャラ大統領は2026年大統領令98号、100号、101号を発出して以下の通り閣僚らの交代人事を行った。また、同時にクナイトラ県、ホムス県、ラタキア県、ダイル・ザウル県の知事を任命する大統領令も発出された。 

役職

交代前

交代後

大統領官房長官

マーヒル・シャラ

アブドゥルラフマーン・アアマー

情報相

ハムザ・ムスタファー

ハーリド・ザアルール

農業相

アムジャド・バドル

バーシル・スワイダーン

評価

 現在のシリアの政治体制は2024年12月の体制転換後の暫定的な体制であり、選挙などで国内的な正統性が確立したものではない。そうした中での今般の人事については、諸外国からの承認、支援、投資の取り付けという対外的な「開放」気運と、ダマスカス市内でのアルコール飲料提供規制、「平和的デモ」の事前届け出制への回帰などの国内への「締め付け」気運が併存する中で行われた。ただし、大統領官房長官をアフマド・シャラ大統領の兄から交代させた以外に特に政治・社会的な意図や意義を論じるべき点は見当たらない。政策や人事が停滞する状況なのは、2025年秋からシリア各地で逐次実施されている暫定人民議会の間接選挙(140議席)が完了せず、それに伴い大統領による70議席の議員の任命も行われず、本会議も召集されていないことを反映している。「政治や社会が安定しているからさしたる人事異動が行われない」というよりは、「政治体制を裏付ける手続きや機関の整備が済んでいない」ため、人事や政策面で大きな動きが取れないのだ。

 これまでに判明している間接選挙の結果では、当選者が「アラブ、スンナ派、男性」に偏重しており、偏重の程度は大統領による任命分で恩恵的に「少数派」の政治的代表性を確保しようとする現行の制度でも修正が極めて困難な状態となっている。長年の紛争による社会の荒廃に鑑みれば、政府や議会の選出制度や構成が暫定的なものとなったり、偏ったりすることはやむを得ないことではある。しかし、暫定人民議会を選出して一応の議会として機能させ、それに基づく政府を編成する作業は、今後も困難と曲折を伴うとみられる。なお、現行の政治日程では、憲法制定や普通選挙による人民議会の選出は2030年以降となる見通しである。

(特任研究員 髙岡 豊)

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