№15 モロッコ:ポリサリオ戦線がスマーラを攻撃
2026年5月5日、モロッコが実効支配するスマーラが攻撃を受け、女性1人が負傷した。また、2発のロケット弾が市内の刑務所付近に着弾し、3発目は墓地の裏手に落下した。スマーラはモロッコが自国の領土とみなす西サハラ北部に位置する主要都市である。
同日、モロッコからの西サハラの独立を目指すポリサリオ戦線は、スマーラの基地を標的とした攻撃を行ったと発表した。
5月8日、モロッコのメディア各社は、米国、英国、フランス、EU、UAE等がポリサリオ戦線の行ったロケット弾攻撃を非難する声明を出したと報じた。2023年以降、スマーラは同組織による攻撃を受けてきたが、モロッコ・メディアは、米国、フランス、EUなど西側諸国・機関がポリサリオ戦線の攻撃を公然と非難したのは今回が初めてだと位置づけている。

(グーグルマップを元に筆者作成。赤印が攻撃を受けたスマーラ)
評価
今般の攻撃に関して、モロッコ政府側から公式的な非難声明は出されていない。一方で、モロッコ国内メディアは、米国、フランスがポリサリオ戦線による攻撃を非難する声明を出したことを大々的に報じている。これはモロッコ政府が、米国、フランス等の第三国による非難を前面に出したほうが、外交的効果が高いと考えているためとみられる。
その背景には、米国のトランプ大統領の下で、西サハラ問題をめぐる国際環境がモロッコに有利な方向へ変化してきたことがあげられる。第一次トランプ政権の末期であった2020年12月、モロッコはイスラエルと国交を正常化し、米国はそれと引き換えに西サハラに対するモロッコの主権を承認した。米国は、親イスラエルの立場を取っており、イスラエルと関係を正常化したアラブ諸国には長年、軍事・経済援助を行ってきた。
2025年10月には、モロッコが提案する西サハラ自治案を基礎とした交渉を支持する国連安保理決議2797号が採択された。同決議は第二次トランプ政権下の米国が起草したものであり、米国は採決前から、西サハラ問題の解決策としてモロッコの自治案を擁護していた。ロンドンを拠点とする『al-Quds al-Arabi』は、安保理決議2797号が採択された10月に、自治案は事実上のモロッコの主権容認に等しいと報じている。
なお、西サハラの独立を支持しポリサリオ戦線を支援してきたアルジェリアは、安保理決議2797号の投票には参加しなかった。しかし、2026年5月6日付のモロッコの『HESPRESS』は、テブン大統領の発言から、従来用いられてきた「民族自決権」への言及が後退していると指摘し、アルジェリアが同決議を無視できない状況にあるとの見方を示した。モロッコの立場を支持する米国の外交的圧力が強く、アルジェリアがポリサリオ戦線の立場を表立って支持することが難しくなっているとみられる。
モロッコは、2030年にスペイン、ポルトガルとともに開催するワールドカップを控えている。そのため、モロッコとしては、独立運動を「弾圧」する国家という国際的イメージは避けたいところである。国際社会、特に米国、ヨーロッパによるモロッコ支持の立場を強調することで、国際的枠組みの中で西サハラ問題を「脱植民地化」の問題ではなく「国内の治安問題」に再定義し、ポリサリオ戦線を「独立運動の主体」ではなく、「地域の安定を脅かす武装主体」として位置づけようとしているとみられる。
他方、西サハラ問題はトランプ大統領の下で、「解決」に向けて前進しているように見えるものの、良くも悪くも米国主導の側面が強い。トランプ大統領の世界的な影響力が低下した場合、多国間の合意として、西サハラ自治の実現がどの程度進むかは不透明である。
(主任研究員 平 寛多朗)
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