中東かわら版

№14 パレスチナ:20年ぶりにガザ地区が参加するも、問題を露呈した地方議会選挙

 2026年4月25日、パレスチナで地方議会と村落議会の議員を選ぶ地方選挙が行われた。2022年以来となる今般の地方選挙では、ヨルダン川西岸地区だけでなくガザ地区のデイル・バラフが対象地域に含まれていた。ガザ地区で選挙が行われるのはハマースがパレスチナ立法評議会選挙で勝利した2006年以来であり、約20年ぶりとなる。

 選挙は地方議会では名簿公開式の比例代表制、村落議会では個人立候補制で争われた。有権者は、いずれの選挙でも最大5人の立候補者を選択することができ、地方議会ではサン=ラグ方式に則って議席が配分された。同方式は、小規模な候補者リストも議席が獲得できる方式となっている。村落議会では得票数の多い順に当選者が決められた。

 地方議会選挙では90の地方議会で議員を選ぶ投票が行われた。それとは別に42の地方議会では、単一の候補者リストしか提出されなかったため、投票が行われず無投票当選となった。各地方議会の議席数は11~15議席であり、投票実施または無投票当選となった地方議会の議席は全体で1558議席であった。

 村落議会選挙では93の村落議会で投票が行われた。それとは別に155の村落議会では、立候補者数が議員定数を超えなかったため、投票が行われず無投票当選となった。投票実施または無投票当選となった村落議会の議席数は全体で2232議席であった。なお、4つの地方議会と36の村落議会では候補者リストまたは候補者が提出されなかった。

 4月26日、パレスチナ自治政府(PA)の主流であるファタハは、同組織の候補者リストが圧勝したと発表し、この結果は同組織の政治的方向性への支持だと主張した。全体の投票率は54%であり、西岸地区で約56%を記録する一方、ガザ地区デイル・バラフでは23%に留まった。

評価

 今般の選挙は、PA主導の地方選挙に、ガザ地区中部のデイル・バラフが含まれ、同地区で約20年ぶりに選挙が実施された点で注目を集めた。2007年にハマースがガザ地区を実効支配して以降、パレスチナではファタハを主流とする西岸地区のPAと、ガザ地区のハマースの間で統治機構の分断が続いてきた。この分断が一つの要因となり、パレスチナでは立法評議会選挙も大統領選挙も長く行われてこなかった。選挙を実施しても、その結果がパレスチナ全体の民意を反映したものと見なされるか等の問題があったためである。そうした中で行われた今般の選挙は、イスラエルによる継続的な攻撃によりデイル・バラフだけに限定されたとはいえ、西岸とガザで広範な選挙が行われる可能性を示唆した点で価値がある。

 しかし、その一方、今般の選挙はパレスチナの構造的問題を改めて浮き彫りにもしている。西岸地区(有権者数約100万人)の面積は三重県(人口約170万)と同程度であり、そのうちPAが行政権を行使できるのは約40%である。決して広いとは言えない地域において、今般、投票または無投票当選により、132の地方議会(1558議席)と248の村落議会(2232議席)で議員が選出された。同程度の大きさの三重県の自治体が14市15町(※市議会の議席総数は297)であることを考えると、パレスチナの地方自治体区分はかなり細分化されている。

 こうした細分化は、地域住民の代表性を高める一方で、候補者擁立の負担を大きくする。全ての選挙区に候補者やリストを擁立できる組織は限られており、特に地方議会では各地区で候補者リストを作成する必要がある。そのため、ファタハのように広範な組織網と地域有力者との結びつきを持つ勢力が、相対的に議席を獲得しやすい構図がある。

 また細分化されているがゆえに、地域において影響力を持つ集団や有力者の意向が選挙結果に反映されやすくなる。これは、とりわけ村落議会において顕著である。有権者数が1,000人以下、あるいは500人以下の選挙区も珍しくなく、動員力を持つ候補者や家族・地域集団が票を得やすい構造がある。その極端な例が、西岸地区の主要都市の一つであるナブルス県のカフル・カリールで行われた村落議会選挙である。同地区では有権者2510人に対し投票したのはたった2人であり投票率は0.08%に留まった。その2人の投票で9人が当選している。この極端に低い投票率は、通常の競争的選挙とは異なる事前調整、地域内合意、あるいは組織的な動きが存在した可能性を示唆している。

 さらに、地方議会の統一候補者リストの策定や村落議会の立候補をめぐっては、特定の団体に偏重するような事前調整が行われていることも指摘されている。無投票当選が多い背景には、こうした地域内調整があると考えられる。無投票当選の多くがファタハ系であることを考えると、何かしらの「交渉」を通して事前調整することで、選挙を通したファタハ「支持」を確実なものにする狙いがあると思われる。加えて、立候補にはPLOをパレスチナ人民の唯一の正当な代表として認めることが求められている。そのためハマースなどPLO主流派やファタハと異なる立場を取る勢力は、公式には立候補できなくなっている。

 今般の選挙は、西岸地区とガザ地区をまたぐ選挙実施の可能性を示す一方で、細分化された選挙区を通して、既存勢力、とりわけファタハ系勢力が影響力を維持しやすい構造を示した。アッバース大統領は2005年の選挙で選出されたが、それ以降、大統領選は行われておらず、21年間同一人物が大統領を務めている。大統領を含め、新陳代謝の起こりにくい選挙制度が、悪化こそすれ好転しないパレスチナ情勢の一因となっている。

(主任研究員 平 寛多朗)

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