№13 ヨルダン:ムスリム同胞団系の政党が改名
2026年4月22日、ヨルダンの『The Jordan Times』は、イスラーム行動戦線(IAF)が、30年以上続いた党名をウンマ党へと改名すると報じた。これは、宗教に基づく名称を禁じる政党法を遵守するためにとられた措置であるとみられる(※「ウンマ」は「イスラーム共同体」を指すこともあるが、単に「共同体」を意味し、「国家」の意味で使用されることもある)。
IAFは、2025年4月に政府より「正式」に非合法団体であると認定された、ムスリム同胞団を支持母体とする政党であり、現在の議会で31議席を持つ最大の野党である。同党の支持母体であるムスリム同胞団は、法的には1953年に「解散」している。2020年には、裁判所より正式な解散判断が示されている。
その一方でその活動は黙認されてきたが、2025年4月に同組織に関連する人物によるヨルダン国内テロの計画が明らかとなると、政府は改めて同団体が非合法団体であることを宣言し、「ムスリム同胞団解体委員会」を設置してその解体を進めた。それと並行し、選挙委員会はIAFに対し、同胞団関連の施設を使用しない等、法令順守を同党に求めてきた。また法令違反に対しては、是正するよう通告を出していた。
2026年4月23日には、すべての政党は政党法に従って党規約を改正する必要があることを選挙委員会は強調し、IAFが必要な改正を済ませていないと発表していた。さらに、IAFは党規約改正の期限を延長されたにもかかわらず、委員会からの指摘事項に対応してこなかったと述べていた。
評価
今般の党名変更に関する一連の動きは、ヨルダン政府がムスリム同胞団とつながりのある、あるいはあったIAFを解党・全面排除するのではなく、政党法の枠内において、活動の継続を容認する方向であることを示唆している。2025年12月には非公式ではあるが、党名の変更やジハード等に言及する党規約の改正等を焦点に、一部の政府関係者とイスラーム主義者の間で交渉が行われているとの報道があった。現時点で、選挙委員会によって通告されている違反の全てが是正されているわけではないが、猶予期間を設けつつ、政権側はIAFの活動を基本的には容認する方向であることがうかがえる。
これは、エジプトのような国とは全く異なる状況である。エジプトでは2013年に現在の大統領であるシーシー国防相(当時)が、ムスリム同胞団に属するムルシー大統領を解任し、自身が権力を掌握して以降、同胞団をテロリスト集団と認定している。エジプトのムスリム同胞団を支持母体とし、ムルシー大統領時代に議会第一党であった自由公正党は、2014年8月に裁判所により解党と資産没収命令が出されている。
エジプトとは異なり、ヨルダンで同胞団系の政党の活動継続が容認される背景には、ガザ問題があるとみられる。パレスチナ難民を歴史的に受け入れてきたヨルダンでは、国民の約3分の2がパレスチナ系とも言われる。そのため、パレスチナ問題に関し、パレスチナ人の権利を擁護し、イスラエルの対パレスチナ政策に否定的な立場を取る者も少なくない。実際、IAFが31議席を獲得したのは、ガザ戦争最中の2024年のことである。同党は選挙期間中、パレスチナの権利を強調する主張をしていた。
他方ヨルダン政府は、イランがイスラエルにミサイルを発射した際、ヨルダン国内を通過するミサイルを迎撃してきた過去がある。イスラエル・米国/イランの軍事衝突が始まった2026年2月28日以降、4月4日の時点でヨルダン軍は261の飛翔体を迎撃しているが、その中にはイスラエルを標的としていたものも含まれていると思われる。これは、1994年にイスラエルと和平条約を結び、その見返りとして米国から多額の援助をヨルダンが受けてきたことと無関係ではない。また、ヨルダンはイスラエル産のガスに大きく依存しており、こうした対イスラエル関係は、ガザ情勢が悪化する局面で、国内の対イスラエル政策への不満として表面化することがある。
そうした中、同胞団系のIAFは、パレスチナ支持、イスラエル非難の立場を受け止める政党として機能する可能性がある。ヨルダン政府は、同胞団そのものを違法化しつつも、パレスチナ問題をめぐる国内世論の受け皿を一定程度残すことで、反イスラエル感情や宗教的主張を管理可能な範囲にとどめようとしているとみられる。
IAFも、政党として活動を続けるためには、政府が定める法的・政治的枠組みの中で活動する必要がある。他方で、同党が幅広い支持を受けた背景にパレスチナ問題があることを考えれば、IAFとしても、政権との正面衝突を避けつつ、パレスチナ支持を訴えていくことが求められる。今後も、政府は反政府運動へと発展しない範囲で宗教的主張やパレスチナ支持の立場を容認し、IAF側もその許容範囲を見極めるという緊張関係は続くとみられる。
【参考】
「ヨルダン:強まるムスリム同胞団の活動規制」『中東かわら版』2025年度No.54。
(主任研究員 平 寛多朗)
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