中東かわら版

№12 イラク:チグリス川の汚染により多大な漁業被害が発生

 2026年4月19日付『シャルク・アウサト』紙(サウジ資本の汎アラブ紙)は、チグリス川での深刻な水質汚染により、イラク南部のワーシト県の養魚場などで魚が大量死する深刻な被害が生じたと報じた。取材を受けた業者は、汚染水の流入について誰からも知らされないうちに、数年間育成してきた魚300トン相当が死滅したと述べた。なお、ワーシト県全体でも1000トン以上の魚の大量死が発生した。

 水質汚染の原因は、未処理、または処理が不十分な下水がチグリス川に流入していることである。今般の魚の大量死に先立ち、上流部に位置するディヤーラー県のディヤーラー川に建設されたハムライン・ダムで大雨に伴う放水が行われた。放水された水はディヤーラー川を経由してバグダード南東でチグリス川に合流したが、その際チグリス川に沈殿していた汚染物質を攪拌し、それが下流に到達したため漁業被害が生じた。専門家によると、(ディヤーラー川からの流入は)沈殿していた汚染物質を攪拌したものの、汚染物質を希釈するほど流れが強くなかったとみられる。なお、ワーシト県では16日に水質汚染によりチグリス川の水を飲まないようにとの勧告が出され、約20件の中毒症状・皮膚の損傷が報告された。

評価

 近年、チグリス川・ユーフラテス川流域では干ばつや上流からの流量の減少による渇水が頻発し、漁業被害も流量減少に伴う海水の侵入の被害が目立っていた。今期については、イラク、シリアでは比較的降水量に恵まれ、上述の通り上流部のダムで大雨に伴う放水が行われるほどになっている。今般の漁業被害は、こうした十分な降水量が汚染物質を拡散させたことによって発生していることから、渇水による漁業被害とは趣を異にしている。降水量が少なくても多くても、チグリス川・ユーフラテス川に関係する様々な被害が絶えないところに、外部要因(この場合は天候)に対するイラクの農業・漁業の脆弱さが現れている。一方、漁業や住民の健康への被害の主因は水質汚染だが、その原因である廃棄物の投棄や下水の不備は、降水量の多寡にかかわらず対策をとることができる問題である。また、渇水についても、灌漑方式の近代化などとるべき対策は多いと指摘され続けている。チグリス川・ユーフラテス川の水問題では干ばつや気候変動が注目されがちだが、水質改善や水利用の効率化など、イラク社会の意識改革を通じて対処すべきことも多い。

(特任研究員 髙岡 豊)

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