中東かわら版

№39 サウジアラビア:二国家解決の実現をフランスとともに呼びかけ

 2025年7月28~30日、サウジアラビアはフランスとの共催で「パレスチナ問題の平和的解決と二国家解決実現のためのハイレベル国際会議」(閣僚級)を開き、ファイサル・ビン・ファルハーン外相がバロ仏外相とともに議長を務めた。会議を経て発表された「ニューヨーク宣言」では、「二国家解決の効果的な実行に基づくイスラエル・パレスチナ紛争の公正で平和的、かつ恒久的な解決を実現」し、「パレスチナ人、イスラエル人、その他の同地域の人々のためのより良い未来を建設」するための共通行動への合意が述べられた。同宣言はアイルランド、イタリア、インドネシア、英国、エジプト、カタル、カナダ、スペイン、セネガル、トルコ、日本、ノルウェー、ブラジル、メキシコ、ヨルダン、EU、アラブ連盟によって支持された。

 また同日、フランス外務省は「ニューヨークの呼びかけ」と題し、アイスランド、アイルランド、アンドラ、オーストラリア、カナダ、サンマリノ、スペイン、スロベニア、ニュージーランド、ノルウェー、フィンランド、ポルトガル、マルタ、ルクセンブルクの各国外務省との連名で、二国家解決に向けた不可欠なプロセスの一環として、パレスチナ国家の承認を宣言した。同会議に先立ってフランスのマクロン大統領は、フランスが9月に正式にパレスチナ国家を承認すると発表しており、30~31日にかけて英国とカナダがこれに続いた。ドイツも、ワデフル外相が31日、この流れに加わる可能性を示唆した。

 サウジアラビアとフランスの両外相は、9月の国連総会に向けて、各国が上記宣言を支持するよう呼びかけた。なおイスラエル・米国は同会議に参加しなかった。

 

評価

 今般の会議は、当初6月17~20日に予定され、同月14日に始まったイスラエル・イラン間の軍事衝突が原因で延期になったものである。「ニューヨーク宣言」と「ニューヨークの呼びかけ」を含め、今般のサウジアラビアとフランスの主張は従来の二国家解決案を改めて訴えるものである。一方、アラブ諸国側が2023年10月7日のハマースによるイスラエル攻撃を強く非難し、同派の武装解除や人質解放、ガザ地区の統治主体としての立場放棄を掲げることでフランス他、欧州諸国と足並みを揃えた点、また会議と並行して一部欧州諸国とカナダがパレスチナ国家承認の意向を宣言した点は、二国家解決案の実現に向けた歩み寄りと呼べる。

 パレスチナに関しては、1988年の独立宣言から1990年代にかけてアジア・アフリカ諸国が、2000年代から2010年代に入り中南米諸国が国家承認してきたが、2024年以降にその数が欧州諸国を中心に増加している(2024年:バルバドス、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、バハマ、スペイン、ノルウェー、アイルランド、スロベニア、アルメニア、2025年:メキシコ)。ここにフランス、英国、カナダが承認の意向を示したことで、パレスチナの国際社会における承認はより太い流れになるだろう。

 一方のイスラエルは、当然ながらマクロン仏大統領の発表を皮切りとした欧州諸国のパレスチナ国家承認の動きを、テロリストを支持するに等しい行為として強く非難している。他方、これに先立つ17日、EUはガザ戦争を受けたイスラエルへの制裁措置の見送りを決定しており、欧州側とすれば硬軟織り交ぜた対応をとっている様子がうかがえる。

 サウジアラビアはじめ、アラブ諸国側の立場とすれば、欧州諸国を巻き込んで、イスラエル及びこれを支持する米国にプレッシャーをかけるのが今次会議の狙いだったと考えられる。ハマース非難を宣言に盛り込んだことは、そのための外交的努力と呼べよう。9月の国連総会に向け、今後さらに欧州諸国への地ならしを進めると予想される。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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