中東かわら版

№40 エジプト・ヨルダン:ガザ地区への人道支援と高まる両国に対する批判

 ガザ地区における飢餓状況が世界に報じられる中、イスラエルの隣国であるエジプトとヨルダンに対して、飢餓を助長しているという国際的な非難が高まっている。各国にあるエジプト、ヨルダン大使館前では、ガザの状況をめぐり両国を糾弾するデモが行われている。例えば、トルコメディアは「犯罪者」と書かれたシーシー大統領の写真が掲げられたデモの様子を報じている。また、フェイスブックにはニューヨーク在住者がガザを「アウシュビッツ」と形容し、これを終わらせるため、ヨルダン領事館の前で抗議活動を行う様子が投稿されている。

 これらの非難は、エジプトによるラファフ検問所の封鎖やイスラエルの「犯罪」を止めようとしないヨルダンの政治姿勢が、ガザ地区でのジェノサイドを助長しているという見方に基づいている。

 そうした中、2025年7月31日、エジプト外務省は「ラファフ検問所とガザ地区への人道支援に関する10の主張」への反論とする投稿をフェイスブックに掲載した。10の主張とは以下の通りである。

 

1.エジプトはガザ地区への人道支援に失敗している。

2.ラファフ検問所はエジプトによって管理されている。

3.エジプトはラファフ検問所を閉鎖している。

4.エジプトはガザ封鎖に参加している。

5.ラファフ検問所はガザ地区の唯一の出口である。

6.エジプトは人々のガザとの連帯を禁止している。

7.エジプトはパレスチナの大義を支持することから距離をとっている。

8.エジプト大使館前でのデモはパレスチナの大義を支持している。

9.エジプトはガザの飢餓を止めることに熱心ではない。

10.エジプトの役割を非難することはガザから苦しみを取り除くことを目的としている。

 

 同投稿では、これらの主張はいずれも虚偽であると述べ、ラファフ検問所に関しては、同検問所が道路を挟んでエジプト側とパレスチナ側の二つのゲートから構成されており、エジプト側のゲートはガザ戦争の開始以来、常に開放されていると強調した。一方で、通行が実際に不可能となっているのは、パレスチナ側のゲートがイスラエル軍の管理下にあり、イスラエルがこれを閉鎖しているためだと説明している。

 一方で、ヨルダンについては、同国の人道支援に対する批判的な見方が寄せられている。7月27日に一時的にガザ地区への人道支援物資の輸送が再開された際、ネット上では、ヨルダンの行動を「政治的なパフォーマンス」とする主張が見られた。こうした批判を受け、8月2日、ヨルダン外務省は、ヨルダンのガザ地区への人道支援を標的とした扇動キャンペーンを非難する声明を出した。3日には、ヨルダン下院の外交委員会が、ヨルダンの人道支援を歪曲することを目的とした継続的な扇動や、在外公館への攻撃を非難した。

 ヨルダンは5月にも、ロンドンを拠点とするウェブサイトから、人道支援で利益を得ていると非難された。これに対し、複数の団体がそのような事実はないとする声明を出している。こうした状況を背景に、7月22日、ファーイズ上院議長が、ヨルダンを標的とする「荒らし行為」に対抗する「インターネット軍」の設立を呼び掛けた。

評価

 エジプトとヨルダンが非難の火消しに躍起となっている背景には、国際的な批判だけでなく、両国内における内政上の問題も影響していたと考えられる。エジプトのメディアは、テルアビブの大使館前でデモを行っていたのはムスリム同胞団であったと報じている。同胞団は、エジプトでテロ組織と位置付けられるイスラーム主義の団体である。またハマースの最高幹部であるハリール・ハイヤは、7月27日にテレビ演説の中で、ガザにおけるイスラエルの残虐行為を阻止するため民衆蜂起を継続するようヨルダン人に呼びかけた。ヨルダンのアブドッラー2世国王は、治安上の理由でハマースの指導部をヨルダンから追放した過去がある。また、現在、ハマースを支持するヨルダンのムスリム同胞団を非合法組織とみなして、その活動を制限している。

 国外で行われたデモの全てに、同胞団が関与していたとは限らないが「エジプト、ヨルダン政府がガザ地区への適切な支援を怠り、飢餓を助長している」といった非難が国外から発せられることで、国内において反政府的な動きが誘発される可能性は否定できない。同胞団がガザの問題を利用する形で、国内の安定性を脅かすような状況は両国の政府にとっては容認しがたいものであろう。こうした背景の中、両国の外務省はガザ地区に関する立場を改めて明確にする必要に迫られたと考えられる。

(研究員 平 寛多朗)

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