中東かわら版

№38 エジプト:アフリカ戦略とイスラーム過激派

 アブドゥルアーティー外相は、7月21日から25日にかけてナイジェリア、ブルキナファソ、ニジェール、マリ、セネガルの西アフリカ5か国を歴訪する外交ツアーを実施した。

 この外交ツアーには、大手エジプト企業30社の代表も同行し、訪問先の各首都で開催された経済フォーラムに参加した。

 アブドゥルアーティー外相は、各国首脳、外相と会談し、二国間関係の強化やテロ対策における協力の深化について協議した。また、外交ツアーに先立つ20日にはチャドを訪問し、同国の外相と会談を行なった。会談では、両国間での人や物の流通の円滑化、貿易促進を目的とした関係強化について協議された。

評価 

 エジプト外務省内に国際開発協力庁が2014年に設置されて以降、エジプトからのアフリカ投資は活発になり、2025年6月時点でその投資額は140億ドルを超えている。7月13日、14日に赤道ギニアで開催されたアフリカ連合閣僚執行理事会では、積極的な個別会談が行われ、エジプトとアフリカ諸国の関係強化や投資機会が模索された。

 包括的な投資戦略を進める一方で、今回の訪問国からはエジプトのもう1つの構想が浮かび上がる。エジプトをトランスアフリカ・ハイウェイ5号線と接続する構想である。アフリカハイウェイ5号線は、ンジャナメ(チャド)から、カノ(ナイジェリア)、ニアメ(ニジェール)、ワガドゥグ(ブルキナファソ)、バマコ(マリ)、そして大西洋に面するダカール(セネガル)を結ぶ道路であり、今回の外相の訪問先と重なっている。

 エジプトからチャドに関しては、今年2月に運輸省がリビアを経由してチャドと接続する道路プロジェクトの詳細を明らかにしている。同プロジェクトはエジプト南西部の東ウワイナートとリビア南東部のクフラを結び、そこからチャド東部のアムジャラスへ接続させるという計画である。東ウワイナート・クフラ間の道路建設は既に始まっている。

 同プロジェクトが成功し、さらにアムジャラスとンジャナメを接続することができれば、紅海・地中海に面するエジプトは、アフリカ大陸を横断する陸路によって、大西洋に通じることになる。これにより、エジプトはアフリカでの貿易を一層活性化させることが可能となると考えられる。

 しかし問題もある。この構想に含まれるナイジェリア、ブルキナファソ、ニジェール、マリでは「イスラームとムスリム支援団」や「イスラーム国」といったイスラーム過激派が活発に活動している地域であり、政府軍兵士に対する襲撃が日常的に発生している。特にニジェールのニアメからブルキナファソのワガドゥグへ向かうルートでは、ブルキナファソのファダングルマを通過するが、そこは「イスラームとムスリム支援団」が活発に攻撃を行っている地域の1つである。

 エジプトがアフリカにおいて陸路による経済活動を活性化させるためには、こうした地域におけるテロ対策が不可欠である。エジプトもその重要性を認識しているからこそ、各国との会談ではテロ対策が議題として取り上げられた。

 会談の中で、エジプトが提案した対策の1つがアズハルを通じた宗教教育の活用である。アズハルはカイロにあるイスラーム諸学を学ぶ教育機関であり、その歴史は10世紀にまでさかのぼる。会談ではアズハルにおける穏健主義的イスラーム理解が強調され、そこで学ぶ者を増やす、あるいはアズハルから宗教指導者を派遣することにより、過激思想の封じ込めを図る戦略が示された。

 技術的な面において、エジプトからリビア、チャドを経由しトランスアフリカ・ハイウェイ5号線と接続する構想が実現するかどうかは不透明である。しかし、今回の外交ツアーから、エジプトが政治的に指導的な立場や経済的ハブとしての役割に加え、国内で過激派を封じ込めた経験を背景に、アフリカにおいて宗教的影響力を強めようとする姿勢がうかがえる。

(研究員 平 寛多朗)

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