中東かわら版

№155 イエメン:アンサール・アッラーによるイスラエル攻撃と今後の展望

  2026年3月28日、アンサール・アッラー(蔑称:フーシー派など)はイスラエル南部を弾道ミサイルで攻撃したと発表した。同派によるイスラエルへの攻撃は、2月28日のアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃後初めてだ。イエメンの外務省(アンサール・アッラー側)は、現下の中東での紛争でイラン側に立って参戦することについて、「(紛争への)直接的軍事介入はイラン、パレスチナ、ガザ地区、イラク、レバノンがさらされているアメリカとイスラエルによる攻撃に対する正当な権利である」と表明するとともに、イエメン側の立場は「イスラーム共同体への宗教的・道徳的責任から生じたものであり、地域と世界の安全と安定を妨げ、世界経済と国際的交通路に悪影響を与える侵略行為を止めるためだ」と主張した。   

評価

 「抵抗の枢軸」陣営の一角をなし、2023年10月の「アクサーの大洪水」攻勢以来、イスラエルへのミサイル・無人機攻撃だけでなくバーブ・マンダブ海峡を含む紅海、アデン湾などの海域での商船への拿捕・攻撃を繰り返してきたことから、アンサール・アッラーが今般の紛争に加わることは、いつでも起こりうることだった。その一方で、紛争勃発以来1カ月の間同派が具体的な行動に出なかったことは、今後の情勢推移を展望する上でも重要な要素となる。アンサール・アッラーは、イスラエルへの攻撃や海上交通の妨害を行うことにより、2024年1月からアメリカ、イギリス、イスラエルによって繰り返し攻撃を受け、大きな被害を被ってきた。また、長年の低開発と紛争により、イエメンの経済状況は著しく悪い。これらに鑑みれば、ラマダーン月とラマダーン月明けの祝日と重複していた2026年3月20日過ぎまでの期間に、アンサール・アッラーが重大な軍事行動を起こしにくかったという事情がある。また、これまでのアンサール・アッラーによる対イスラエル攻撃は、イスラエルにほとんど物理的な損害を与えておらず(過去2年間におよそ200発のミサイル、数百機の無人機で攻撃したが、イスラエル側の死者は1人)、これに対しイエメンはアンサール・アッラー側政府の閣僚複数を含む大きな被害を受けた。アンサール・アッラーの「参戦」により、一応「抵抗の枢軸」陣営による北(レバノンのヒズブッラー)、東(イラン、イラクの民兵諸派)、南(アンサール・アッラー)の三方向からの対イスラエル戦闘の形勢ができたものの、「抵抗の枢軸」陣営の諸当事者の利害は各々異なっている。もし「抵抗の枢軸」陣営の団結がより強固ならば、このような形勢はもっと早く作られ、より効率的な対イスラエル攻撃ができたはずだ。軍事的対決の構図を「アメリカ・イスラエル」陣営対「抵抗の枢軸」陣営ではなく、個々の衝突ごとに細分化して個別の「停戦」を希求する働きかけが熱心に行われれば、「抵抗の枢軸」陣営が長期間結束を保つことができるわけではないだろう。

 今後のアンサール・アッラーの行動で最も懸念されるのは、同派がバーブ・マンダブ海峡の封鎖を試みることである。過去2年間のアンサール・アッラーの活動により、近隣の海域では228隻の船舶が攻撃を受け、4隻が沈没、30隻以上が損傷、およそ10人が死亡している。アンサール・アッラーに実際に海上交通を遮断する力があるかはさておき、イエメン近海で攻撃を受ける可能性が上がったとなれば民間の船舶は同海域を避けざるを得なくなるだろう。もっとも、アンサール・アッラーには、「イランやパレスチナへの団結・支援」の他にもイエメン紛争をはじめとするイエメン内外での有利な立場の確立や、当地に必要な資源の獲得などの目標があると思われる。このため、アンサール・アッラーによる紛争への関与、特に海上交通への妨害が、イランの差配により専らイランの利益に奉仕するために展開するとは考えにくい。

(特任研究員 髙岡 豊)

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