№154 クウェイト:ホルムズ海峡の混乱で食料安全保障に影
- NEW2026湾岸・アラビア半島地域クウェイト
- 公開日:2026/03/31
ここ最近、クウェイトでは食に関する報道が増加傾向にある。2026年3月28日、クウェイトメディアはクウェイトの農業当局者と労働組合が、国内の農業部門は需要を満たす能力を持っていると強調したと報じた。さらに買いだめを目的とした「パニック買い」を避けるよう国民に呼びかける当局者らの声を伝えた。
これに先立つ3月24日、アフマド・アブドッラー首相は、食料供給の維持を検討する会議を開催した。同日、クウェイトメディアは、ジャジーラ航空がインドからサウジアラビアのカイスーマ空港を経由して4.5トンの生鮮食品を輸送することに成功し、クウェイトへの代替供給ルートが確立されたと報じた。
他方、クウェイトメディアは26日、GCC諸国で幅広く展開するインド系ハイパーマーケット「ルル」が、インド各地から専用チャーター便、貨物船、通常の海運便を組み合わせることで、GCC諸国向けに生鮮品を大規模に輸送してきたと報じた。またインドのモディ首相とルル・グループ会長の会談の様子を伝え、モディ首相が、GCC諸国向け食料品輸出の円滑化に向けてインド政府として全面的に支援すると述べたと報じた。

(グーグルマップを元に筆者作成。赤のマーク:カイスーマ空港。緑の線で囲った部分がクウェイト。緑の線より北西部はイラクで南部はサウジアラビア。赤の線より東側はイラン。)
評価
クウェイトで食に関する報道が増加傾向にあるのは、イスラエル・米国の攻撃に対するイランの報復とホルムズ海峡の実質的な封鎖を受けた、クウェイトの食料事情と関係があるとみられる。
オープンアクセス学術出版社であるMDPIに掲載された論文によれば、約500万人が暮らすクウェイトは、耕作可能な土地が総面積の9%未満にしかすぎず、世界でも農業活動が限定的な国の一つである。実際、その国土の多くは砂漠であり、農業に適した国とは言えない。そのため、クウェイトは食料の多くを輸入に頼っている。とりわけ主食である小麦は、2023年の国内生産が25.29トンにとどまる一方、その輸入量は約38万トン(2024年)に達している。米の輸入量も約22万トン(2023年)であり、主食の相当部分を海外に依存している。なお、2024年のコメの輸入額は世界39位であり主にインドから輸入している。これら食料の多くは、主として海上輸送に依存しているとみられる。
以上のことを踏まえると、イランによるホルムズ海峡の実質上の封鎖は、エネルギー輸出の問題だけではなく、クウェイトにとっては食料安全保障の問題であり、同国にとっては死活問題となる可能性がある。食料に関する報道が増えたのは、供給不安に対する国民の不安を抑え、「パニック買い」を防ぐ狙いがあると思われる。
他方、クウェイト政府は代替供給ルートの模索を始めている。現在、3月25日にクウェイト国際空港が攻撃を受け火災が生じるなど、クウェイト国内の空域は必ずしも安全とは言えない。そのため、サウジアラビアへ空輸された物資を陸路で輸送するという手段が模索されている。しかし費用も日数もかかるうえ、船舶ほどの輸送量は期待できない。
GCC諸国は通関規則の統一化を進めるなど域内物流の促進を図っており、本来であればクウェイトの食料安全保障はGCC諸国との連携によって一定の安定化が期待されていた。しかし今般のイランによる一連の攻撃は、GCC諸国にも及んでおり、湾岸域内の食料供給ネットワークは大きく損なわれているとみられる。クウェイトの食料供給体制は不安定化しており、今般のイランによる攻撃は、クウェイトの食料安全保障の脆弱さを露呈させた形となった。また食料を確保するため、クウェイトはインドとのつながりを強めているが、その依存度を高めれば、それは新たな安全保障上のリスクとなる可能性もある。
(研究員 平 寛多朗)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/







.png)
