№148 イラン:モジタバー・ハーメネイー最高指導者による年初のメッセージが発表される
- NEW2026湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2026/03/23
2026年3月20日、モジタバー・ハーメネイー最高指導者は、イラン新年(2026年3月21日~)に向けた年初のメッセージを書面で発表した。同師の声明は、最高指導者選出後3回目であるが、同師の姿・肉声は依然として出されていない。
なお、イランでは、西暦622年を紀元の年とするヒジュラ太陽暦が用いられ、通常の年は3月21日が正月(ノウルーズ)となる。今年のノウルーズは、ヒジュラ太陰暦に基づくラマダーン月明けのフィトル祭の日と重なっている。
メッセージの主な内容は、以下のとおり。
(1)イラン暦1404年(西暦2025年3月21日~2026年3月20日)に、イラン国民は「3つの軍事・治安上の戦争を経験した」とし、第1の戦争は2025年6月の12日間戦争、第2の戦争は2025年12月末から翌2026年1月中旬まで続いた抗議活動、そして第3の戦争は「イスラーム共同体(ウンマ)の心優しき父」の殺害とともに始まった、イランと米国・イスラエルとの現下の戦争だと指摘。
(2)「第1の戦争」について、戦争を契機に国民がイスラーム共和国体制を転覆させるだろうと敵は計算したが、「あなた方国民の聡明さとイスラームの戦士たちの勇敢さ」によって、敵は早々に戦争継続を断念したと指摘。
(3)「第2の戦争」、すなわち抗議活動について、「デイ月のクーデター」(イラン暦の「デイ月」は西暦12月22日~1月20日まで)と呼び、米国とイスラエルは「傭兵たち」を利用して、多数の「我らが親愛なる同胞たち」を殺害し、多大な被害をイランにもたらしたと指摘。
(4)「第3の戦争」について、敵は体制指導者と軍幹部を殺害すれば、イラン国民は恐怖から戦闘を諦め、イランを支配し解体することができるようになると踏んだものの、国民は断食をしつつ「ジハード」を行い、敵が呆然自失となるようなダメージを彼らに与えたとし、敵が「矛盾した言葉の数々」を口にしているのもそのためであると指摘。
(5)「クーデターを鎮圧」するなどして、「偉大なる叙事詩を創造」した「親愛なる国民一人一人」、また戦闘や生産等の現場で自らの社会的役割を果たしている人々に謝意。
(6)敵は人々の心に狙いを定め、彼らの団結を傷つけようとしているとし、国内のメディア関係者に対して、(互いの)弱点を言い募るようなことは真に控えるよう要求。
(7)イランが抱える経済及び行政上の弱点を利用することが敵の一縷の望みだとし、国民の生活を保障し、そのための基盤を強化することが「経済戦争」に対抗するためには必要だと指摘した上で、イラン暦新年のスローガンは「国民の団結と安全のもとでの抵抗経済」であると発表。
(8)イスラーム教をともに信仰し、「抑圧戦線に対抗」するという「戦略的利益」を共有していることを基礎として、近隣諸国との友好関係を真剣に追求していくべきだとし、特に「東の隣国(複数)」がイランに「極めて近い」存在であるとの認識を提示。特にハーメネイー前最高指導者が関心を示していた国としてパキスタンを挙げ、自身も様々な理由から同じ考えであるとし、同国ともう一つの東の隣国アフガニスタンの関係改善を呼びかけ。
(9)イランはトルコ及びオマーンと「適切な関係」を有しているとした上で、両国の一部の地域に対して行われている攻撃はイランやその他の抵抗勢力によるものでは断じてなく、イランと近隣諸国とを分断しようとするシオニストの計略であると強調し、その他の一部の国々でも同じことが起きている可能性があると指摘。
評価
今回の声明でまず目を引くのは、あるいは2025年12月末から約2週間続いた抗議活動(声明では「クーデター」)を鎮圧し、あるいは断食を続けながら敵との「ジハード」に従事している「国民」に謝意を示しつつ、彼らの生活の改善に向けて、「国民の団結と安全のもとでの抵抗経済」を新年のスローガンに掲げたことである。
新年のスローガンに経済状況の改善が掲げられるのは毎年恒例であり、特に新味はない。しかし、米国・イスラエルとの戦争が継続している中にあっても、依然として「経済」を新年のスローガンに掲げたことは、このメッセージが戦後の復興を見据えていることを示している。
ただし、モジタバー師のメッセージからは、現在イランが米国・イスラエルとの戦闘に巻き込んでいるUAEやカタル、サウジアラビアといった「西」の近隣諸国との関係改善を通じた戦後復興よりも、パキスタンやアフガニスタンといった「東の隣国」との関係拡大を通じたそれを念頭に置いているように思われる。モジタバー師、あるいはその背後にいると思われる革命防衛隊が湾岸諸国を巻き込んだ米国・イスラエルとの消耗戦を一定程度継続しつつ、パキスタンやアフガニスタン、中央アジア諸国、ロシアとの関係強化による経済の立て直しを思い描いている可能性がある。
また、モジタバー師はメッセージで、テヘランで(乗合)タクシーに乗車し、そこで一緒になった一般市民から経済・行政に対する不満の声を聞いたというエピソードを披露し、彼らの意見から大いに勉強になった旨述べ、これからも新たな学びを追求したいと表明していることも注目に値する。庶民に「近い」存在であることをアピールする狙いがあるものと思われるが、(一部の写真を除いて)その姿や肉声が謎に包まれた「お隠れの」指導者だからこそ可能な「御忍び旅行」のエピソードが、今後も披露されるのかもしれない。
【参考】
「イラン:モジタバー・ハーメネイー新最高指導者が初の声明」『中東かわら版』No.140。
(主任研究員 斎藤 正道)
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