中東かわら版

№144 イスラエル:ノウルーズと繰り返されるイラン国民への呼びかけ

 ここ最近、イラン国民に呼びかけるイスラエル側の発言が相次いでいる。2026年3月17日、ネタニヤフ首相は、テルアビブの軍司令部からの録画メッセージで「私はイスラエルの国防相、参謀総長、モサド長官、空軍司令官、上級司令官と共にここにいる」と述べ、「私たちは過去24時間で、トップ級テロ指導者2人を排除した」と強調した。そして、「さあ、祝おう!ノウルーズ(※イランの新年)おめでとう!私たちは上空から見ている」とイラン国民に呼びかけた。

 ネタニヤフ首相のイラン国民の呼びかけはこれが初めてではない。3月10日、ネタニヤフ首相は、「あなたたちの夢が現実になる」、「適切なときに、私たちはあなた方にバトンを渡す。その瞬間を掴む準備をせよ!」とXに投稿した。3月12日に行った記者会見では、イラン国民が現在のイスラーム体制を打倒するかどうかに確信は持てないと述べたうえで、「水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」と述べた。一方で、「『助けは向かっている』と私はあなた方に伝えてきた。その助けは到着し、さらに続くだろう」とイラン国民に呼びかけた。

 また、サアル外相は3月11日に、「最終的に、私たちが(イランの)体制を打倒することはできない。できるのはイラン国民だけだ」と述べ、「外からの支援がなければ、イラン国民が体制を打倒することはできない」と強調した。

評価

 イスラエルが、イラン国民の「解放」の「支援者」として自らを位置付けようとするのは、今般のイランに対する攻撃が始まって以降、一貫している。2月28日に、今般の攻撃開始を伝える演説の中で、ネタニヤフ首相は現在のイラン体制を「圧制」と位置付けた上で「自由世界のパイロットたち(すなわちイスラエル軍)が、あなた方を助けに駆けつけている」とイラン国民に呼びかけている。

 今般の攻撃は、2026年1月にイラン全土に広まった現体制に対する抗議デモが一つのきっかけになったと思われる。この抗議デモに対して、ネタニヤフ首相は「イラン国民が自らの運命を自らの手で握ろうとしている瞬間」と表現し、イラン国民への断固たる支持を表明していた。繰り返されるイラン国民への呼びかけは、この延長線上に位置付けられる。

 他方で、攻撃開始から10日余りが経過してから、イラン国民への直接的な呼びかけが目立つようになったことは、イスラエル側が期待したような体制動揺が直ちには生じていないことを示している可能性がある。2月28日の最初のイランに対する攻撃で、ハメネイ師および軍の要人を殺害し、その後も継続して要人殺害、軍事施設への空爆を行っているにもかかわらず、イラン国内で大規模な蜂起の兆候が見られず、イランの体制が倒れる気配はない。こうした状況を踏まえると、最近の呼びかけの増加は、イラン国内で体制転換をさらに促そうとする広報戦術が継続しているとみられる。

 3月17日、『The Jerusalem Post』紙は、サアル外相がイスラエルは危機の排除を目指していると述べたが、目標達成をどのように判断するのかについては言及しなかったと報じた。体制転換を促すために、イスラエルが要人殺害を繰り返せば、イランにおいて国内を統率できる人物がいなくなり、イランが混乱状態に陥ることも考えられる。そうなれば、アラビア海/ペルシャ湾だけでなく、イランの空域も不安定化し、世界の輸送や経済に影響が及ぶことも考えられる。

 3月17日、国防当局が2026年の国防予算要求額を1770億シェケル(約9.1兆円)まで引き上げたとイスラエルメディアは報じた。仮にイランが混乱状態に陥り、イスラエルがその収拾まで視野に入れざるを得なくなれば、対イラン攻撃のコストは極めて高くなると考えられる。今般のイラン国民への呼びかけの背景には、そうした事態への懸念がある可能性もある。

【参考】

「2026年2月28日の対イラン攻撃をめぐるイスラエルの判断――脅威認識の変化、国内世論、今後の展望」『中東分析レポート』R25-06。※会員限定。

(研究員 平 寛多朗)

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