中東かわら版

№143 シリア: ダマスカス県がアルコ―ル飲料の販売・提供を広汎に規制

 シリアの首都ダマスカスを管轄する地方自治体に相当するダマスカス県は、県内でのアルコール飲料の販売に広範な規制を課した。それによると、ダマスカス市でのレストラン、ナイトクラブでのアルコール飲料の提供は禁止され、アルコール飲料の販売店はバーブ・トゥーマ、カッサーウ、バーブ・シャルキーの諸街区で認可を得た店舗に限定される。また、アルコール飲料の販売店は、モスク、教会、学校、墓地から少なくとも75m、警察署や政府の庁舎から少なくとも20m離れたところに存在することとの規制も課された。なお、上記の3街区は、ダマスカス市の旧市街かそれに隣接する地域であり、キリスト教徒の居住地、教会などのキリスト教関連施設・史跡の所在地として知られている。

評価

 県は、規制を「苦情や地域社会の要望に応じ、公共の秩序に反する現象を排するため」と主張した。しかし、ダマスカス市内では上で挙げられた諸街区だけでなく、市街地の様々な街区に飲酒やアルコール飲料の購入が可能な店舗が点在していた。また、食料品などの供給・流通で公共部門の役割が大きかった時代には、ダマスカスだけでなく諸都市・集落に設けられた国営商店的な店舗で国産ビールが販売されていた。大規模なモスクの周辺ではアルコール飲料の提供・販売を禁ずる規制は従来からあった模様だが、アルコール飲料の提供・販売を特定の街区に押し込むような規制は存在しなかったし、あったとしても違反が黙認されていた。つまり、従来シリア社会では飲酒、アルコール飲料の販売・提供は個人の判断に委ねられる、本邦や欧米諸国の実践と著しく乖離したものではなかった。

 こうした背景を踏まえると、ダマスカス県が公権力の行使としてアルコール飲料の提供・販売を規制することは、自由や私生活についての一般のシリア人の実践への強い干渉と思われる。また、ダマスカス市内での酒販店はアルメニア人が従事している場合が多いと考えられていることから、公権力の行使を通じた「正しいイスラーム」の実践は、特定の宗教・宗派集団、民族集団、ひいては経済階層に対するあからさまな排撃と紙一重の危ういものでもある。

(特任研究員 髙岡 豊)

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