中東かわら版

№132 イスラエル:イスラエル軍、レバノン南部の拠点を拡大

 2026年3月3日、イスラエル軍は、前方防衛態勢を強化するため、南レバノンで既に維持している5カ所の拠点に加え、南レバノンのより深い地点に追加部隊を展開したと発表した。これは、3月1日に、イスラエルと米国による対イラン攻撃への反応として、イランの支援を受けるヒズブッラーがイスラエルに向けて飛翔体を発射したことを受けた措置である。

 他方、イスラエル軍の北部司令部は、イラン情勢が落ち着くまで、レバノンに大規模な地上侵攻を開始する可能性は低いと述べた。

評価 

 

 今般の軍事拠点の拡大は、イスラエルの地上部隊がレバノンに侵攻するという類のものではなく、イスラエル北部の警備を予防的に強化するため、いわゆるバッファゾーンを拡大したものとみられる。

 報道で見る限り、現時点でイスラエル政府はヒズブッラーを「差し迫った」脅威とみなしていない。ヒズブッラーが飛翔体を発射した3月2日、スモトリッチ財務相は、政府は北部の住民を自宅から避難させないことを決定したと発表している。イスラエルは、ここ数カ月、ヒズブッラーの拠点を狙い、レバノン南部への空爆を強化していた。そのため、ヒズブッラーは既に弱体化しており、イスラエルに被害を与えることはできないという判断だと思われる。

 同様に、イスラエル軍もヒズブッラーがイスラエルにとって「脅威」となるような軍事行動は起こせないとみている。北部司令部は、イランがヒズブッラーにとってのほぼ唯一の支援源であり、同国の援助と指導なしではヒズブッラーは自然に崩壊する可能性があるとの見解を示している。現在、イスラエルは米国と共にイランを攻撃しており、それによって同国の既存の体制が崩壊、あるいはヒズブッラーを支援できないような状態となれば、同組織はもはや存続することはできないとイスラエル軍はみている。

 他方で、イスラエル軍にもレバノン南部へ地上侵攻しにくい事情がある。2026年1月16日付の『The Jerusalem Post』紙は、2023年10月7日以降に始まった2年間にわたるガザ戦争の後、兵士の間でPTSDと自殺・自殺未遂が急増していると報じている。そして、ガザおよびレバノンで戦闘が続き、イランとの緊張が高まる中で、軍におけるメンタルヘルスの重要性を指摘している。兵役を退いた兵士の心的ケアが不十分であるとの報道も度々イスラエル国内で報じられている。また、兵士不足も指摘されており義務兵役期間拡大の可能性も報じられている。既存の兵士に更なる軍事活動を課せば、兵士の疲弊およびPTSD等の問題が加速する可能性がある。そのような状況の中で、イスラエルがレバノン南部へ地上侵攻することは難しいと思われる。

今般のレバノン南部における拠点拡大は、地上侵攻の予兆というよりも、バッファゾーンの拡張によってヒズブッラーの直接的脅威を封じ込めつつ、同組織の構造的な弱体化と組織的な崩壊を待つという、イスラエルの慎重な姿勢を反映したものと言える。

【参考】

「2026年2月28日の対イラン攻撃をめぐるイスラエルの判断――脅威認識の変化、国内世論、今後の展望」『中東分析レポート』R25-06。※会員限定。

イスラエル政治を左右するユダヤ教超正統派――徴兵法問題と連立政権の行方」『中東分析レポート』R25-05。※会員限定。

(研究員 平 寛多朗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP