№127 中東:イラン情勢の緊迫化を受け、ホルムズ海峡が通航不可
- NEW2026その他GCC湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2026/03/02
2026年2月28日に米国とイスラエルがイランを奇襲攻撃したことを受け、イランがペルシャ湾岸地域での軍事行動を活発化させる中、石油や液化天然ガス(LNG)が日々通過するホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥った。イランによる船舶への威嚇や、海上保険料の高騰・引受停止を背景に、多くの海運会社や貿易会社は現在、ホルムズ海峡の航行を控えている。
ホルムズ海峡は、世界最大級の原油タンカーが航行できる十分な水深と海峡幅を有する重要な海上交通路の要衝である。米国エネルギー情報局(EIA)によれば、2024年にホルムズ海峡を通過した石油量は日量2020万バレル(bpd)を記録し、これは世界の海上輸送量の25%以上、世界の石油消費量の約20%に相当する。天然ガスに関しても、ホルムズ海峡経由のLNG貿易量が世界全体の約20%を占める
ホルムズ海峡が通航困難となったことを受け、国際原油価格は上昇している。北海ブレント価格は、イラン攻撃前日の2月27日に1バレル73ドルだったが、3月1日には78ドルまで急上昇した。今後のイラン情勢次第では、ホルムズ海峡の封鎖状態が長期化すれば、原油価格の一段の高騰が懸念される。
評価
ホルムズ海峡の封鎖リスクは、2025年6月のイスラエル・イラン間の戦闘時にも表面化した。イランが海峡を完全に封鎖しなくとも、周辺での軍事衝突や商船に対する威嚇・武力行使を背景に、保険会社がホルムズ海峡を通過する船舶への保険適用を停止したり、高額な戦争リスク保険料の付加を求めたりする事態が想定された。その結果、海運会社は安全面と採算性の観点から航行を見合わせる可能性が高まり、同海峡が実質的に通航困難に陥るケースである。
この類似例は、イエメン拠点のフーシー派による紅海での商船攻撃である。影響を受ける船舶は紅海側の航路を避け、喜望峰ルートへの迂回を強いられている。ただ、ホルムズ海峡の場合、代替の航路が存在しないことから、同海峡の航行不能による物流の寸断は、世界のエネルギー市場に深刻な影響を及ぼす。
またホルムズ海峡を迂回できる石油供給ルートも限られている。サウジアラビアには、東部の油田地帯アブカイクから西部の紅海沿いの港町ヤンブーまでを結ぶ、全長約1200kmの東西石油パイプライン(輸送能力・日量500万バレル)がある。UAEには、アブダビ首長国の油田地域ハブシャーンからホルムズ海峡のインド洋側に位置する港町フジャイラに通じる、全長約360kmの石油パイプライン(輸送能力・日量150~180万バレル)がある。ただ輸送能力に制約があるため、従来ホルムズ海峡を通過していた輸送量全てをカバーすることは困難である。加えて、LNG輸送は原油と異なり代替ルートがほとんど存在しないことから、世界最大級のLNG輸出国であるカタルからの天然ガス供給も途絶する恐れがある。
ホルムズ海峡の通航不可は、日本のエネルギー調達にとっても大きな懸念事項である。日本は欧米諸国と足並みを揃えて2022 年にロシア産原油の輸入を控えたことから、ほぼ全ての原油を湾岸産油国から輸入している。原油の中東依存度は2025年に約94%に達し、ホルムズ海峡を経由した原油輸入量は9割にのぼる。日本は短期的には石油備蓄の放出などで対応できたとしても、中長期的には原油価格の高騰が円安基調と相まって、国内の燃料価格を大幅に押し上げる可能性が高い。
天然ガスについては、日本はLNGの大部分を中東以外(主にオーストラリア、マレーシア)から調達しており、ホルムズ海峡を通過するカタル産・UAE産の輸入は、2025年時点で約400万トン(総輸入量の約6%)にとどまる。ただ、カタルがホルムズ海峡の通航困難により、LNG輸出を継続できなくなれば、世界のLNG需給は大きく崩れ、スポット価格が急騰する可能性がある。加えて、日本企業が締結するLNG売買契約の多くは石油価格連動の価格指標を採用しているため、原油高はLNGの輸入価格も押し上げ、結果として燃料調達コストの増加が電気料金の上昇につながる恐れがある。
【参考】
「UAE:2024年に続き、2025年も日本の最大の原油調達先に」『中東かわら版』No.118。
(主任研究員 高橋 雅英)
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