中東かわら版

№124 イスラエル:反イスラエルのトルコ人をイスラエル人キックボクサーが撃破

 2026年2月22日、『Jerusalem Post』紙は、ムエタイの選手であるアハヴァト・ハシェム・ゴードンが、トルコ人のアリ・コユンジュとリトアニアで試合を行い、2ラウンドにテクニカルノックアウト勝ちしたと報じた。同紙は試合の詳報と共に、トルコ人のコユンジュ選手が、計量の際、イスラエル国旗を肩にかけたイスラエルのゴードン選手の首元に掴みかかり、制止された後に腹部へ蹴りを入れたと紹介している。合わせてゴードン選手の勝利に対し、イスラエルのゾハル文化・スポーツ相が「我々のイスラエル人選手への新たな輝かしい勝利」とXに投稿したことを報じた。

 同日、『Times of Israel』紙も、「イスラエルのキックボクサーが反イスラエル的なトルコ人選手を撃破」の見出しでこの試合を報じた。同紙では、試合の内容と共に、トルコ人のコユンジュ選手が試合前にSNSに反イスラエルの投稿をしていたこと、2023年のガザ戦争以来ガザを支持しイスラエルを非難してきたトルコとイスラエルの関係が緊張状態にあることを紹介した。また、試合後、イスラエルのゴードン選手が、応援のために会場に駆けつけイスラエル国旗を振っていたイスラエル人達に感謝の言葉を述べたことを伝えた。そして、『Jerusalem Post』紙同様、ゾハル文化・スポーツ相のXへの投稿も報じた。

評価

 『Times of Israel』が述べているように、近年、両国は緊張関係にあり、イスラエルはトルコを一種の仮想敵国とみなしている。イスラエルのネタニヤフ首相は、ガザとの停戦交渉の際、トルコが仲介国に加わることに反対の姿勢を示し、現在においてもガザの治安を担うことが予定されている国際安定化部隊(ISF)に、トルコが参加することを強く拒否している。2025年12月には、トルコ軍の動きをけん制するため、イスラエル、ギリシャ、キプロスの3カ国の軍で構成される緊急対応部隊の設立について、ギリシャ、キプロスと協議している。

 今般の試合結果は、そうしたトルコに対する警戒心、敵意を背景に報じられていると思われる。トルコ人のコユンジュ選手が反イスラエル的な投稿をしていたこと、計量の際にイスラエルの国旗を肩にかけたイスラエル人選手に襲いかかったこと、トルコとイスラエルの現在の関係は、試合の結果、内容には不要な情報である。それでもこのようなことを記事の中で言及したのは、「悪」としてのトルコとその脅威を撃退する「正義」としてのイスラエルという構図が、無意識的に頭にあるからであろう。ゾハル文化・スポーツ相の「新たな輝かしい勝利」という投稿の紹介も、その文脈とは無関係とは言えない。

 試合結果を報じた『Jerusalem Post』は中道から保守寄り、『Times of Israel』は中道とされる新聞である。特に『Times of Israel』は、パレスチナ情勢に関して、イスラエル人によるパレスチナ人への暴力を報じるなどバランスが取れたメディアである。そうした媒体でさえ、スポーツ結果に関して反トルコを全面的に押し出す記事を出すところに、イスラエル社会におけるトルコへの印象がうかがえる。

 最新の世論調査によれば「極右」政党のユダヤの力党は、今秋予定されている国会選挙で120議席中8~9議席を獲得すると予測されている。同党の綱領には「ユダヤ人への攻撃を実行・支援・後援する者」、「ユダヤ人国家、その価値に反する行動をとる全ての者」は敵であり、同党はそういった敵に対し、「あなたを殺しに来る者がいれば、少なくとも立ち上がってその者を取り除け」というユダヤ人の原則に従うと述べている。この綱領は極めて排外的な性質となっているが、それでも同党が8~9議席を維持する見込みであるところに、イスラエルの「敵」に対する敵意がイスラエル国内には潜在的にあると思われる。今般の試合結果の報道は、そのことを示唆しているように思われる。 

【参考】

イスラエル:ネタニヤフ首相、トルコ・カタルを「新たな脅威」と認識」『中東かわら版』No.82。

イスラエル・トルコ・パレスチナ:ガザ和平へのトルコの関与」『中東かわら版』No.73。

(研究員 平 寛多朗)

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