№122 イラン:米国による軍事攻撃の可能性、高まる
- NEW2026湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2026/02/20
日本時間2026年2月20日午前、ウォールストリート・ジャーナル電子版は、核問題でイランに妥協を促すために、米国はイランの軍事施設あるいは政府機関を狙った限定的な攻撃を数日以内に行う可能性があると報じた。同報道によると、イランが米国の要求に応じない場合、イスラーム共和国体制の転覆を視野に入れたより大規模な攻撃を行う見込みだという。
18日にも、AXIOSはトランプ米大統領がしびれをきらせつつあり、対イラン攻撃の可能性は「90%」だとする同大統領顧問の話を伝えている。また米CBSも、国家安全保障の高官がトランプ大統領に、軍はイランへの攻撃の準備ができており、早ければ土曜日(21日)にも可能だと述べたと報じるなど、ここ数日で米国による対イラン攻撃の可能性が急速に高まっている。米国の報道によると、イランは2週間以内に米国の懸念を解消するための提案とともに、米国との協議に戻ることに同意したとされ、この提案が米国の要求にそぐわない場合、米国による全面的な対イラン攻撃が実行に移される可能性がある。
17日にジュネーブでオマーンを仲介役とした米国とイランの間接協議が行われ、イランのアラーグチー外相は協議後、イラン国営テレビとのインタビューで、米国との第2回目の交渉は前回よりも前向きだったと述べた。しかし、イラン側のこうした楽観的な発言とは対照的に、バンス米副大統領はFOXとのインタビューで、イランはトランプ米大統領の「レッド・ライン」を受け入れなかったとし、選択肢としての軍事行動に言及していた。
19日には、トランプ米大統領は「我々は(イランと)ディールを結ぶことになるかもしれない。おそらく今後10日以内に分かるだろう」と述べ、その数時間後、記者団に対し「10日、最大でも15日だ」と述べている。
評価
米国による対イラン攻撃が高まっている背景には、いくつかの要因が指摘できる。
まず、トランプ米大統領は2隻の空母を含む大規模艦隊をオマーン海及び東地中海に派遣しており、単なる脅しとは考えられないことである。イランとの交渉で、トランプ米大統領の満足の行く成果が得られない場合、派遣した艦隊をそのまま米国に引き戻すようなことは考えづらい。
他方で、米国の要求をイランが全面的に受け入れることも困難であろう。米国はイランに対し、ウラン濃縮活動の全面的停止、イスラエルの安全保障を脅かしかねない弾道ミサイルの制限、地域の親米国家の安全にとって脅威となりうる代理勢力への支援停止を要求している。イランの人権問題も、要求内容に含まれているだろう。
一部報道は、イランが高濃縮ウランの国外搬出や3年間のウラン濃縮活動の停止を受け入れる可能性を報じ、またラーリージャーニー国家安全保障最高評議会書記はアルジャジーラとのインタビューで、イランの核計画が平和目的であることを証明するために、地下施設の査察も許可する用意があると発言しているが、イランは事実上、2025年6月から濃縮活動ができない状態にあり、この程度の歩み寄りで米国(とイスラエル)が満足するとは到底考えられない。しかし、核開発で得られた濃縮技術をすべて手放すことは、原子力産業を「産業の母」と形容し、国家的な誇りの領域に引き上げたハーメネイー最高指導者にとって、屈辱そのものであろう。
弾道ミサイル(とドローン)は、航空戦力で劣るイランにとって国防の要であり、その制限は「大坂城の堀を埋める」に等しい行為である。それゆえ、弾道ミサイルの制限をイランが受け入れることは、同国の安全保障上、困難であろう。またイランは、「抵抗」のイデオロギーを掲げ代理勢力を支援することを通じて、自らの地域における権威を高めてきたことを考えると、代理勢力への支援停止は国内外におけるイスラーム共和国の存在意義に関わるものと理解されているはずだ。
他方、米国にとって、大規模な抗議活動に直面し、国家としての正統性が揺らぐイランに「手心」を加える理由など一つもない。1979年の革命の際にテヘランにあった米国大使館を占拠され、大使館員が444日間にわたって人質に取られた屈辱の記憶を抱える米国のタカ派にとって、イスラーム共和国の打倒は夢である。抗議活動への弾圧で多くの死者を出した同体制への攻撃は、国外に住むイラン人はもちろんのこと、国内に住むイラン人からも支持を受けやすく、対イラン攻撃に踏み切れば、米国民からも内外のイラン人からも英雄扱いされるのではないかと、トランプ米大統領が考えている可能性もあるだろう。ついでに言えば、ウクライナ戦争でロシアを軍事支援している(とされる)イランへの攻撃は、ロシアを安全保障上の脅威と感じている欧州諸国からも歓迎されると踏んでいるのかもしれない。
米国はイランに対して、まさに「全面降伏」か「戦争」かの二者択一を迫っており、そうすることが可能な状況であるとみなしている一方、イランは米国に対する妥協は安全保障面でも、イスラーム共和国体制のイデオロギー的な存在理由という面でも受け入れられず、米国との戦争の方が体制の維持には有望と考えていると思われる。このことが、今回イランと米国の軍事的緊張が高まっている原因であろう。
なお、2月16日から17日にかけて、イラン革命防衛隊海軍は軍事演習「ホルムズ海峡スマート・コントロール」を実施し、ホルムズ海峡を一時封鎖した。同演習では、ミサイル発射可能な高速船、ドローン、巡航ミサイルなどを用いた演習が行われ、大艦隊を擁する米国に対して非対称戦を行う能力を誇示した。ハーメネイー最高指導者も17日に、軍艦は危険な存在だが、「その軍艦を海の底に沈めることのできる兵器」の方がより危険だとして、米国を牽制している。
(主任研究員 斎藤 正道)
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