№117 イラク:ヌーリー・マーリキー元首相の首相候補擁立と反響
- NEW2026イラク湾岸・アラビア半島地域
- 公開日:2026/01/28
2026年1月24日、イラクの国会の最大会派である「調整枠組み」(国会の定数329議席中197議席程度の規模とみられる)は、ヌーリー・マーリキー元首相(法治国家連合代表)を同会派の首相候補として擁立することを決定した。2025年11月11日の選挙で選出されたイラクの国会は、今後大統領の選出、大統領から首相候補への組閣委託を経て新政府の編成に向かうこととなる。
マーリキー元首相が次期首相候補として擁立されたことについては、アメリカが同人を「イラン寄り」の人物として忌避する態度をあからさまにした。26日にはルビオ国務長官がスーダーニー首相と電話会談したが、その中では目下の懸案であるシリアで収監されていた「イスラーム国」囚人のイラク移送問題に加え、「イラクとイランとの関係」も議題となった。また、トランプ大統領もSNSでマーリキー元首相が首相に返り咲くことは「ひどい選択」と酷評した上で、その場合アメリカ政府はイラクへの支援を禁じると脅迫した。
評価
イラクでは、首相は「選挙で獲得した議席が最多の党派・連合」ではなく、選挙後の諸勢力の交渉を経て編成される「最大の院内会派」から候補を擁立する慣行となっている(なお、この慣行は2010年の選挙後、当時のマーリキー首相が導入したものである)。このため、「調整枠組み」がマーリキー元首相を擁立したことには、今後の流れを決める重大な影響力がある。「調整枠組み」内での候補の選定は多数決で決しており、現職のスーダーニー首相ら競合者や不満を持つ者も見られるようだが、スーダーニー首相が率いた選挙連合の獲得議席数は46議席程度とみられており、「調整枠組み」の会派自体の崩壊・再編に至るような変動が起きる可能性は高くない。
ここで、アメリカがあからさまにマーリキー元首相の返り咲きに反対する態度をとったことは、首相の選出とその後の組閣を混乱・長期化させる要因となる。マーリキー元首相は、首相在任期間(2006年~2014年)の当初はイランの影響力を受けにくい人物と評され、「強い指導性とイラクのナショナリズム志向」によって、当時の「親イラン」党派が希求した南イラクでの連邦地方政府樹立運動を退けた。しかし、2014年夏に「イスラーム国」がイラク領の広範囲を占拠した際には、同人の政策運営がその元凶とみなされ、アメリカの外交・報道・研究分野から「宗派主義的」、「腐敗」、「権威主義」などの否定的評価を浴びせられて追い落とされた。
イラクで首相の選任や組閣が混乱・長期化するのは、同国の選挙制度や議会内の会派の役割や位置づけなどの制度のルール内で、各政治勢力が利益を最大化するために振舞う結果である。マーリキー首相も、現在のイラクの政治体制が樹立された当初からこれに関与し、2014年に首相の座から退いた後も国政上の有力者として活動してきた。イラクの政治体制の根幹部は、イラク戦争を経てアメリカが設計・導入したものであるが、そうした体制内からアメリカ自身が忌避する人物が政治的指導者として選出されることは皮肉な結果である。今後、トランプ大統領の脅迫が実行に移される場合、イラクからのアメリカの影響力の排除を志向する勢力にとってはかえって望ましい結果になる一方、イラク人民の経済状況・生活水準に甚大な悪影響が出る可能性がある。イラク人民は、選挙によって諸政治勢力に審判を下すことができない制度・運用の下にいると同時に、そのような選挙を通じて形成される政府の性格や政策によって悪影響を受けかねないという不条理に直面している。
(特任研究員 髙岡 豊)
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