中東かわら版

№113 イラク:ヒズブッラー部隊がイラン情勢の諸当事者を威嚇

 イランでの抗議行動をめぐり地域の内外で緊張が高まる中、イラクでもイランと親しい民兵による威嚇・示威が目立つようになった。2026年1月15日、SNS上で「ヒズブッラー部隊」の幹部による総動員を促すとみられる書き込みが投稿されたほか、同部隊の名義で「悪の基地」への攻撃の用意があると主張する書き込みや、同派が「戦争の際には(サウジの)アラムコの石油生産を第一の攻撃対象とする」ことをほのめかしたとされる動画も出回っている。

 ヒズブッラー部隊(カターイブ・ヒズブッラー)は、イラクで編成された民兵の一つで、同国の治安部隊の一翼をなす人民動員隊に参加しつつ、シリア紛争やイラクでのアメリカ軍などに対する抵抗運動での作戦行動でしばしば名前が挙がる団体である。名称が似ているがレバノンのヒズブッラーとは別組織で、イラクでの公然活動は2000年代にさかのぼる、同国の民兵としては「老舗」に属する。政治的にはイラン・イスラーム共和国の統治原理である「法学者の統治」を信奉する旨を公言する、イランとの距離が最も近い団体とみなされるが、近年は「イスラーム抵抗運動」やほかの知名度の低い団体の名義を用いたアメリカ・イスラエル施設への攻撃が行われる中、同派自身の名義を用いた戦果は発信されていない。

評価

 ヒズブッラー部隊を含むイラクの民兵諸派の中には、「抵抗の枢軸」陣営に属して長年イラクや周辺地域でのアメリカ・イスラエルとの抗争に関与してきた団体がある。「抵抗の枢軸」陣営に加わる諸派・諸国は、アメリカやイスラエルによる覇権に抵抗するとの目的を共有しつつ、両国との直接対決と「抵抗の枢軸」陣営の他団体と命運を共にするかのような共同行動の両方を慎重に避けてきた。こうした「抵抗の枢軸」陣営の在り方こそが、緩やかに連携し個々の参加者が大きな責任を負うことを回避しつつ同時多発的に問題を引き起こすという柔軟な闘争を行う強みである。しかし、こうした態度は、陣営の構成員誰もが仲間のために命を賭して戦わないという消極的行動に終始する弱点でもあった。「抵抗の枢軸」陣営は、2023年10月以降のイスラエルとの抗争により大打撃をこうむり、実質的に壊滅状態にある。しかし、現在は陣営の最大の構成員であるイランの政権の存亡が問われる危機にあり、イラクにおける「抵抗の枢軸」の参加者たちも敗北した場合の政治的打撃を最小に抑えようと試みつつ、イラン擁護、対イラン攻撃抑止のための行動に出たとみられる。諸派の動向は、彼らがイランの政権の滅亡を確信して無理心中的な紛争拡大に出る可能性をも想定して警戒すべきものだ。しかし、現時点での諸派の言動は、「アメリカやイスラエルによる壊滅的な対イラン攻撃があるならば」という状況設定の下でのことであり、こうした受け身の態度こそが「抵抗の枢軸」の限界でもある。

(特任研究員 髙岡 豊)

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