中東かわら版

№112 イラン:抗議活動で多くの犠牲者との報告

 2025年12月28日に始まった物価高騰に抗議するテヘラン市民の抗議活動は、瞬く間に全国に広がった。2026年1月8日夜からインターネットや海外との電話連絡が遮断され、それ以降、治安当局による極めて苛烈な鎮圧が行われた模様である。

 1月13日、ノルウェーを拠点とする人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は、抗議活動が始まって以降、734人の死亡を確認したと報告し、米国を拠点とする「HRANA(Human Rights Activists News Agency)」は、全国187の都市で抗議活動があり、2403人が死亡したと報告している。この報告によると、死亡者の中には、147人の治安隊員・体制支持者も含まれているとされる。

 インターネットの遮断によって、抗議活動の規模や当局による弾圧の激しさに関する情報は限られているが、衛星インターネット・システムである「スターリンク」を通じた動画や目撃談が一部伝えられている。BBCペルシア語に寄せられた一部情報によると、アルボルズ州の大都市キャラジの南に位置するファルディースでは、9日夕刻から狙撃手が屋上から人々を殺害した、あるいは革命防衛隊が人々に容赦なく発砲したという。

 イラン指導部の抗議活動に対する発言も強硬なものとなっている。抗議活動が始まった当初、人々の経済的不満への理解を示していたペゼシュキヤーン大統領は、1月11日、国内外で訓練を受けたテロリストがイラン国内に流入し、モスク等に放火していると指摘、ラーダーン治安維持総司令官(警察長官)も、国外から「操作された」者たちが人々に発砲していると述べて、市民を殺害しているのは治安部隊ではなく、「敵」であり、治安部隊の発砲はあくまで「敵」への対処であるとの見方を示した。また、モヴァッヘディーアーザード検事総長は、「暴徒」たちは「モハーレブ」(反逆者、神に反抗する者)であるとして、殺害を正当化している(「モハーレブ」は、コーラン5章33節[「神とその使徒に対して戦いを挑む」者への報いは「討ち取られる」等以外にない]に由来)。

 抗議活動に対する治安当局の対応が苛烈さを極めるきっかけとなったのは、1月9日のハーメネイー最高指導者の発言である。同師はその中で、「米国大統領に気に入られるため」に「破壊活動を生業にしている者たちがいる」とした上で、「イスラーム共和国は、数十万の気高き殉教者たちの血によって生まれたのであり、破壊分子に対して歩み寄るようなことはしない。イスラーム共和国は外国に金で雇われた者たちを容認しない」と述べ、徹底的な鎮圧を指示した。これを受け、革命防衛隊情報機構は、「現在の状況が続くことは受け入れられない。テロ事件の犠牲者の血は、その計画者たちに降りかかるだろう」との声明を出している。

 他方、トランプ米大統領は、1月9日に「事態を注視している。イラン体制が殺害に手を染めれば、攻撃する用意がある」と述べ、13日には自身のSNSである「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、抗議者たちに向けて抗議活動を続けるよう呼びかけ、「支援が届けられようとしている。MIGA(イランを再び偉大に)」と檄を飛ばした。同大統領はその後のインタビューで、米国の同盟国の関係者に対してイランを離れるよう勧告するかとの問いに、「離れるべきだと思う」と発言しており、米国による対イラン攻撃の可能性が高まっている。

 なお、トランプ大統領は同日、イランとの通商関係のある国からの輸入品に対して25%の関税を課すことを発表した。主に中国やトルコ、UAEのイランとの通商に影響を与える可能性があり、イランでモノ不足が発生する可能性もある。

評価 

 今般の抗議活動は、1979年の革命以降では最大の全国規模の抗議運動となっているように思われる。HRANAによると、イラン全国187の都市で抗議活動が実施されたとされるが、10万人以上の人口を抱えるイランの都市は全国に100カ所以下であることを考えると、ほぼ無名の田舎町にも抗議活動が広がったと思われる。抗議活動の広がりという点からいえば、イラン史上でも稀有な現象と言えるかもしれない。

 しかしだからといって、イランの現体制が簡単に崩壊すると想定することはできない。イランで一般市民による抗議活動がいかに高まろうとも、現体制を動かしている指導部内で分裂が生じたり、抗議活動を鎮圧する治安部隊(革命防衛隊など)や国の運営を支える公務員が体制から離反したりしない限り、「革命」が起こるとは思われないからである。トランプ米大統領は、イラン当局による弾圧に対して介入する姿勢を示しているが、もし米軍による対イラン攻撃があれば、ハーメネイー最高指導者以下が指摘する外国の敵による抗議活動の煽動・介入に関する主張が「証明」されることになり、むしろ指導部内や治安部隊の結束と士気は高まることも予想される。

 1979年の革命で廃位させられたモハンマド・レザー・シャーの息子レザー・パフラヴィー氏の存在感・動員力がこれまでになく高まっていることも否定できない。事実、1月8日夜8時にシュプレヒコールを上げようとの同氏の呼びかけがSNSで共有され、若者たちの間で抗議活動への呼びかけが行われたことが指摘されている。抗議活動では「シャー(国王)万歳」の掛け声が頻繁に用いられている。王政復古に対する人々の漠然とした期待が高まっているようだ。しかし、同氏は革命以来45年以上も国外に暮らし、イラン国内にほとんどコネクションを有していない。たとえ抗議活動によって何らかの政変が起きたとしても、彼が政変後のイラン政治を動かす可能性はかなり低いものと思われる。

【参考】

イラン:物価高への抗議デモ、全国に拡大『中東かわら版』No.109。

(主任研究員 斎藤 正道)

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