№110 UAE:深層ガス開発プロジェクトの最終投資決定
- NEW2026湾岸・アラビア半島地域アラブ首長国連邦
- 公開日:2026/01/09
2026年1月7日、アブダビ国営石油会社(ADNOC)は、アブダビ沖合のガシャー(Ghasha)鉱区に位置するサルブ(Sarb)深層ガス開発プロジェクトについて最終投資決定(FID)を発表した。開発が進めば、2030年までに日量2億立方フィート(年間換算で約2bcm)のガス供給が見込まれ、国内電力需要で30万世帯以上を賄える規模となる。産出ガスはダス島へ輸送され、既存のガス処理インフラに接続した上で処理される計画である。
ADNOCは、サルブ深層ガス開発プロジェクトが、国内ガス需要の拡大に対応するとともに、将来的な追加的ガス輸出の基盤を形成する戦略案件であると位置付けている。また、同事業では、先進デジタル技術及び人工知能(AI)を導入し、アルザーナ島からの遠隔管理・操作を行うことで、運転効率の高度化と操業安全性の強化を図る計画である。
評価
サルブ深層ガス開発プロジェクトは、原油生産に伴って発生する随伴ガスではなく、非随伴ガスの生産を目的としたものである。UAEはこの数年ガス生産量の拡大に向けて、非随伴ガスの開発に注力してきた。投資規模は未公表であるものの、沖合・深層という立地条件から巨額の開発費用が想定される中、ADNOCが今回FIDに踏み切ったことは、UAEがガス開発を戦略的に重視している姿勢を示すものと言える。
UAEがガス増産を目指している背景には、ガス火力発電の利用を一定程度維持しつつ、液化天然ガス(LNG)輸出向けのガス余力を確保する狙いがある。UAEは太陽光発電や原子力といったクリーンエネルギーを積極的に導入し、電源構成に占めるガス火力の比重を2021年頃から低下させてきた。一方で、電力消費量そのものは増加を続けており、今後はAI産業やデータセンターの拡大によって、さらなる需要増が見込まれる。ADNOCによれば、アブダビで建設中の容量5GW(ギガワット)規模の「UAE・米国AIキャンパス」だけでも、日量10億立方フィート(年間換算で約10BCM)のガス需要増加要因になるとされる。こうした電力需要の拡大に対応しつつ発電部門の低炭素化を進めるためにも、UAEは従来型より二酸化炭素(CO2)排出量の少ないガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)型のガス火力発電所を、2025年10月にフジャイラ首長国で稼働させた。さらに、将来的にはCO2を大気中に排出しないCCS対応型(CCS-Ready)ガス火力の導入にも関心を示している。
UAEは国内向けガス供給の確保に加え、LNG輸出拡大計画の実現も同時に進める必要がある。ルワイスLNGプロジェクトでは、新たなLNG生産設備が2028年までに稼働予定であり、UAEのLNG年産能力は、現在の水準から2倍以上となる最大1,560万トンへ拡大する見通しである。LNGの追加生産分については、ADNOCがすでに中国、日本、インド、英国、ドイツ、マレーシアの企業と売買契約を締結していることから、契約履行に必要な輸出向けガス量を安定的に確保することが重要な課題となる。こうしたLNG輸出拡大の観点からも、サルブ深層ガス開発の重要性は一層高まっている。
(主任研究員 高橋 雅英)
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