№109 イラン:物価高への抗議デモ、全国に拡大
- NEW2026湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2026/01/05
2025年12月28日にテヘラン中央部の電気街で始まった、自国通貨リヤールの暴落に抗議する商店主らによるデモは、その後全国に拡大し、デモ開始から1週間で少なくとも国内20州、50都市で実施された。伝えられている映像では、治安当局によるデモ参加者への発砲や暴力的取り締まりも行われており、ノルウェーを拠点とするNGOの「イラン・ヒューマン・ライツ」によると、2026年1月4日までに少なくとも19名が死亡したという。クルド人居住地域であるイラン西部イーラーム州では、1月3日の衝突で5名が死亡したとも伝えられている。
ハーメネイー最高指導者は、1月3日に行った演説で、軍事的な敗北を喫した敵は、虚偽情報の流布など、イランに対して「ソフトな戦争」を仕掛け、国民の間に絶望と懐疑を蔓延させようとしていると指摘し、最近のリヤール安は自然なものではなく、「敵の手」が介在しているとの見方を示した。同師はさらに、経済的問題に対する国民の抗議は正当だとしつつ、抗議者と暴徒は異なるとし、正当な抗議者の後ろで反イスラーム共和国的な暴動を煽る者たちが存在するとして、彼らは鎮圧されねばならないと述べた。
評価
抗議活動の端緒となったのは急激なリヤール安である。2025年3月24日時点で、1ドルは約102万リヤールだったが、その後イランと米国の間の核交渉の実施によって、イラン・イスラエル戦争開戦前の6月10日には1ドルが約82万リヤールまで回復していた。しかし、戦争終結後の2025年7月1日に1ドルは約91万リヤール、欧州3カ国が対イラン国連安保理制裁決議の一斉復活に向けた手続きを開始した8月28日に1ドル100万リヤールを再び突破し、国連安保理制裁が一斉復活した9月28日には1ドル約110万リヤールをつけた。その後、小康状態を保っていたものの、12月に入って1ドル120万リヤールを超えるようになり、抗議活動が開始された12月28日には1ドル140万リヤールにまで暴落していた。
抗議活動を起こした電気街の商店主らは外国製のスマートフォンなどを扱っており、リヤールの暴落によって彼らはこれらの商品を輸入できない状態に陥っていた。こうした電気街の商店主らの経済的不満は、物価高に苦しむ一般国民の蓄積された不満を爆発させる契機となり、抗議活動は雪だるま式に拡大していったと考えられる。
2025年12月下旬にイラン統計センターが発表したところによると、イラン暦1404年9月(西暦2025年11/12月)の物価は、昨年同時期と単純比較して52.6%上昇し、食料品に限っては72%の上昇だった。報道によると、昨年比で食用油は2倍以上、鶏卵は3倍に値上がりしているという。こうした物価上昇に伴い、家族や友人が集まるイランの伝統的な「冬至の夜の集い(シャベ・ヤルダー)」では、このパーティーを飾るピスタチオなどのナッツ類、スイカやザクロなどの果物類が一般家庭の食卓から消え、質素なパーティーを余儀なくされたという。なお、2025年2月時点の報道では、一般家庭では羊肉はもちろんのこと、最近では鶏肉も買えない状態になっていることが伝えられている。
一般国民の抗議は、経済問題への不満を容易に飛び越え、イスラーム共和国体制そのものへの抗議に発展している。抗議活動の様子を伝える動画では、「独裁者に死を」といったシュプレヒコールに加え、「シャー(王)万歳」といった王政復古を唱えるものまで叫ばれている模様である。
ハーメネイー最高指導者は演説で、イランは敵によって「ソフトな戦争」を仕掛けられ、経済問題に対する正当な抗議活動がイスラーム共和国体制に対する不当な暴動へと煽られていると指摘した上で、米国の圧力には屈しないことを改めて強調した。敵の「ソフトな戦争」に「徹底抗戦」するべく、今後抗議活動に対する苛烈な弾圧が行われる危険性も排除されないだろう。
(主任研究員 斎藤 正道)
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