№111 シリア:暫定政権とクルド民族主義勢力との交戦が激化
2026年1月6日ごろから、アレッポ市シャイフ・マクスード街区、アシュラフィーヤ街区を占拠しているクルド民族主義勢力と暫定政権との交戦が激化した。双方は、被害が生じるのは相手方の責任だと主張しつつ、住宅地や民間人への攻撃を繰り返した。アレッポ市での戦闘は、11日にクルド民族主義勢力がアレッポ市の2街区から退去し暫定政権側がこれを制圧することで終息した。戦闘に際しては、トルコやイスラーム過激派の外国人が暫定政権に与して戦闘に参加したとの情報や、民族浄化的な捜索や逮捕についての情報も流布している。暫定政権は、アレッポ県東部の勢力混在地・クルド民族主義勢力の占拠地に作戦を継続する方針で、交戦当事者が各々無人機を用いた空爆や増援部隊の派遣を繰り返している。
図:2026年1月14日時点のシリアの軍事情勢(筆者作成)

評価
暫定政権とクルド民族主義勢力は、2025年3月に後者を前者に統合することで合意に達していたが、その中で期限とされた2025年中には統合についての実質的な措置は一切取られず、アメリカなどが仲介した両者の交渉も全く成果を挙げなかった。一方、暫定政権の保護者であるトルコ政府は、クルド民族主義勢力をトルコ国内の反政府勢力だったクルディスタン労働者党(PKK)と同一組織とみなし、クルド民族主義勢力とこれが運営する自治統治機構をテロリストとしてしシリアへの越境攻撃や脅迫を繰り返している。今般の交戦は、一見するとこのようなシリア国内での民族、宗教・宗派集団間の争いや、諸当事者間の関係を反映したものにみえる。しかし、問題の本質はそのような表層的な権益の配分や交渉によって解決可能なものとは思われない。
暫定政権は、アル=カーイダを含むイスラーム過激派の武装勢力の流れをくむものであり、彼らがイドリブ県を占拠していた時点から、制圧下の住民の生活態度や日常的なふるまいにも権力を通じて干渉する全体主義的な統治を実践してきた。暫定政権の権力奪取後、従来は個人の良識や行動規範の問題とされてきた「公共交通機関での男女席の分離」、「海水浴場・プールでの服装規制」などが、行政機関の規則として導入されたのも、個人の内面にも公権力が干渉する統治の実例といえる。一方、クルド民族主義勢力の占拠地では、PKKの創始者であるアブドッラー・オジャラン指導者の「思想」に基づく、(極端な)ボトムアップ式の地域自治機構の形成、宗教行政も含む行政・立法機関での厳格なクオータ制の導入、家庭内暴力問題などへの公権力の介入強化による社会生活の変容が報告されている。「オジャラン思想」は、左翼・世俗主義的な発想に基づく、「革命的」社会変革を志向するものである。つまり、暫定政権はイスラーム過激派の思想・信条、クルド民族主義勢力は左翼・世俗主義の思想・信条という相互に相いれない基盤に則り、異なる目標を追求するものの、目標に至る手段は全体主義という同一の手段に依拠している。両者の統治は「異なる基盤とゴールを持ちながら、同じ実践をする」ものであり、きわめて相性が悪い。暫定政権とクルド民族主義勢力との関係と、両者を当事者とする治安状況は、こうした両者間の本質的な相性の悪さを抜きにして論じることはできないだろう。
なお、クルド民族主義勢力は、西側諸国出身者を含む「イスラーム国」の交戦員やその家族を超法規的に収監するという、国際的に「必要悪」として容認されうる「汚れ仕事」を担っている。こうした役回りも、クルド民族主義勢力と暫定政府の「統合」を妨げ、シリアの解体を促進する要因として忘れてはならない。
(特任研究員 髙岡 豊)
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