中東かわら版

№103 シリア:社会と領域の解体傾向が続く

 2025年11月28日、暫定政府の制圧地の各所でアフマド・シャラ大統領の呼びかけに応じたデモが行われた。デモの参加者は領土の統一や分断拒否を訴えたが、現実には諸外国・非国家主体によるシリア領への侵害や占拠が解消するめどが全く立たない中、「少数宗派」とされるアラウィー派やドルーズ派の人々に対する中央政府の求心力にも不安がみられる。11月27日には、「テロ組織」の摘発と称してイスラエル軍がダマスカス郊外県バイト・ジン集落を襲撃し、住民との間で戦闘となった。戦闘により、住民側13人が死亡したほか、イスラエル軍の6人が負傷した。暫定政府とこれを支持する諸国の反応は、外交的な非難にとどまった。また、28日のデモでは本件についてイスラエルの侵攻への非難が盛り上がることもなかった。イスラエルに対しては、アメリカが事態の悪化に懸念を表明して抑制を試みているが、クナイトラ県、ダラア県をはじめとするシリア領へのイスラエル軍の侵入は日常化している。

図:2025年12月3日時点のシリアの軍事情勢(筆者作成)

評価

 暫定政府は、国際的には広く承認され支持を得ているように見えるが、安全保障や国際関係の場での「シリア・アラブ共和国」の当事者能力は一向に回復していない。シリア紛争の間にアメリカやトルコが配下として育成した民兵は、形式的にはシリア軍に統合されたが、後援国の意向を離れてシリア軍のもと一元的に行動しているようには思われない。また、北東部を占拠するクルド民族主義勢力の民兵の統合についても、3月の統合合意は実質的な進展を遂げていない。そうした中、体制転換以後政府軍・治安部隊、その他正体不明の武装勢力による殺戮や略奪にさらされているアラウィー派の住民を中心に抗議行動が発生したが、参加者・呼びかけ人の要求事項には地方分権や連邦制の導入が含まれていた。また、7月以来スワイダ県でドルーズ派の民兵と政府軍・治安部隊との戦闘が散発的に続いているが、暫定政府はイスラエルの脅迫に屈してシリア南部で本格的な軍事行動をとることができないため、ドルーズ派民兵に占拠されたかのような同県の状態が解消されるめども立っていない。

 「シリア・アラブ共和国」の分断や解体傾向が強まる最大の原因は、暫定政権やその支持者たちが宗教・宗派、民族的帰属に基づいて「多数派」(この場合はスンナ派のアラブ)が様々な権益の枢要を握ることを当然視し、そうした帰属を超えた「政治的多数派」を形成するための方策を講じられないことにある。その結果、「少数派」として劣等市民待遇しか受けられないことが確実な人々が「シリア・アラブ共和国」に属し続ける意味や必要性を見出すことは期待し難くなる。暫定政府がざまざまな局面や記念日に支持者を街頭行動に動員することは、国家の分断や解体傾向やイスラエルによる侵害行為という問題に具体的に対処できないことから世論の目を逸らすための儀式になりつつある。暫定政府の呼びかけに応じて街頭に出た人々は統一、分断の拒否を叫ぶが、そのための具体的な政策や行動がとられていないため、シリアの分断や解体傾向は今後も強まる恐れがある。

(特任研究員 髙岡 豊)

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