中東かわら版

№102 エジプト:下院選挙で選挙区の半分以上が選挙結果無効に

 2025年11月30日、エジプトの最高行政裁判所は、不正を理由として2025年議会選挙における28選挙区の選挙結果を無効とする判断を下した。これに先立つ11月18日には、選挙管理委員会が19選挙区の選挙結果を無効としており、裁判所の判断と合わせて47選挙区の結果が無効となった。

 エジプトでは11月に下院選挙が実施され、10日、11日に1回目の投票、24、25日に2回目の投票が行われた。18日には、1回目の投票で割り当てられていた選挙区の結果が公表されることになっていた。1回目の投票では、14県70選挙区(282議席)で投票が行われたが、約3分の2に当たる47選挙区で結果が無効となり、再選挙が行われることになった。

  

評価

 今般の1回目の下院選挙では不正に関する通報・苦情が多数寄せられた。報道によれば、投票所周辺での無許可の宣伝活動、食料品や金銭の配布、投票所内での特定の候補者への投票指示、「有権者」を投票所へ輸送する多数のミニバス、投票者数と投票数の不一致等が各地で行われた。

 こうした不正は、「アラブの春」以前からみられるものであり、エジプトを知る者にとってみれば、エジプトの通常の「選挙」風景である。

 そうした「歴史」がある中、今般の選挙において多くの選挙区で結果が無効となった背景には、現在の選挙制度の構造とシーシー大統領の政治的思惑が影響していると考えられる。

 エジプトの選挙制度は「拘束式名簿(リスト)」と「個人代表区(定数1の小選挙区)」で争われる。政党・無所属者から成る拘束式名簿方式は、過半数の票を獲得した名簿が、割り当てられた選挙区の議席を独占することができる。そのため、有力な名簿に名前が記載されれば当選の可能性が極めて高くなる。

 今般の選挙では、この名簿に名前が記載されるために多額の金銭が必要であったと報じられている。エジプトの独立系メディアである『Mada』は、ある候補者は議席を確保するために2000万ポンド(6500万円相当)を求められたと伝えている。これは名簿に名前を掲載するための費用だとみられる。

 シーシー体制のエジプトでは反対派の活動が徹底的に弾圧されており、選挙での競争度も低く、政府支持派の勝利が確約されている。そのため、現在下院の議席の55%を占め、シーシー政権と関係の近い国民未来党の名簿への記載は高額になることは容易に想像できる。また、国民未来党による選挙介入も露骨なものであり、『Mada』は今般の選挙では同党による違反行為が最も目立ったと報じている。

 今般の選挙では、名簿掲載から漏れた従来の政府支持層候補者が多数存在していたとみられ、そういった候補者は無所属として個人代表区での勝利を狙わざるを得なかった。その結果、当選確保のための不正行為、国民未来党の名簿候補による不正への強い反発、特に接戦区における他候補の不正に対する不満につながったと思われる。そうしたことが、選挙管理委員会への通報・苦情の急増につながったのであろう。

 17日、シーシー大統領は、選挙での不正報告を受け「有権者の真の意思を反映する」よう選挙管理委員会に対応を求めた。これは、名簿から漏れた政府系候補者等の不満を抑える狙いがあったとみられる。

 今般の選挙結果をめぐる一連の出来事は、エジプトが選挙の公平性に向けて前進していることを示すものではない。むしろ、ムバーラク政権時代にみられた事実上の一党独裁体制への回帰と、その体制内部での利権・権益をめぐる対立の激化を反映したものだと思われる。

【参考】

エジプト:下院・代議院選挙の最終結果」『中東かわら版』2020年度No.119。

(研究員 平 寛多朗)

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