中東かわら版

№104 パレスチナ:進むパレスチナへの象徴的連帯と現実の乖離

 パレスチナ問題に関する象徴的なメッセージと、パレスチナで起きている現実との乖離が一層進んでいる。

 2025年11月29日、エジプトのシーシー大統領は、パレスチナ人民連帯国際デーに合わせてパレスチナのアッバース大統領に書簡を送った。書簡の中でシーシー大統領は、全世界が不正と抑圧に立ち向かうパレスチナ人の伝説的不屈さを目撃していると強調し、パレスチナの大義に対するエジプトの揺るぎない支持を改めて表明した。

 同日、エジプト外務省は「パレスチナ人の自決権およびパレスチナ国家の樹立は、政治的要求ではなく、国際法に定められた歴史的権利である」との声明を出した。

 一方、同じ日、パレスチナのハマースは、ガザ停戦合意の仲介国(エジプトとカタル)と保証国、シャルム・シェイフ合意の当事者に対し、イスラエルによる合意違反を止め、ガザ地区への砲撃を止めさせるための行動を求めた。パレスチナ側の報道によれば、イスラエル軍は29日未明から、ガザ地区の様々な地域に対する陸・海・空からの激しい爆撃・砲撃を行った。

 さらに、ハマースはヨルダン川西岸で発生しているイスラエル人による襲撃、パレスチナ人の住宅立ち退き強要などの増加は「明白な戦争犯罪」であると非難した。

 これに先立つ28日には、パレスチナ自治政府(PA)のルディーネ報道官は、ヨルダン川西岸北部のトゥーバースに対するイスラエル軍の軍事行動は3日目を迎え、ジェニーンやトゥールカリムも攻撃を受けていると述べた。トゥーバースに関しては、イスラエル軍は4日連続して軍事作戦を行い、一度軍を引いた後、攻撃を再開している。

 このような状況の中、12月1日、PAのシャイフ副大統領は、ガザ地区と西岸地区における攻撃の停止をイスラエルに求めた。同日、ハマースの政治局は、(予定されている)ガザ地区に展開するいかなる国際部隊も、イスラエル軍からパレスチナ市民を引き離す任務を果たすべきだと述べた。

評価

 パレスチナ人民連帯国際デーの日に生じた一連の出来事は、パレスチナに関する現状を鮮明な形で示している。

 2025年7月28~30日にサウジアラビアとフランスが開催した国際会議では、「二国家解決の効果的な実行に基づくイスラエル・パレスチナ紛争の公正で平和的、かつ恒久的な解決を実現」することを目指す「ニューヨーク宣言」がヨーロッパや中東諸国の支持を集めた。9月の国連総会では、イギリス、フランス、カナダなどがパレスチナを国家として承認した。

 他方で、承認されたパレスチナ「国家」に対するイスラエルの「侵攻」は止まることなく、パレスチナ人民連帯国際デーの日においては、エジプトがパレスチナの権利を主張する一方で、パレスチナ内部からは仲介国であるエジプトに対し具体的な行動を求める声が上がる事態となっている。9月にパレスチナを国家承認した国に関しても、パレスチナ「国家」の主権を侵害する行為に対し、それを止めるような具体的な行動を取っていない。

 このような状況は、パレスチナ問題が国際政治の駆け引きの場となっていることを示すものである。エジプトは、二国家解決やガザ復興に関して繰り返し象徴的行動を取ることで、地域における存在感を示し続けている。同様に、フランスも、国家承認という象徴的な政治的行為を通じて国際社会での存在感を高めた。さらに国家承認が進む過程では、フランスや中東諸国がパレスチナを支持する立場を明確化する一方で、イスラエルとその後ろ盾である米国との関係をどう調整するかという、いわば外交的な陣営選択の問題も国際社会で浮上していた。

 イスラエルは、パレスチナ国家承認の動きが国際社会で進む時期に、軍事行動を繰り返してきた。これは承認への反発であると同時に、国際社会が発する象徴的なメッセージが現実の力学を変えないこと、さらにはそれが単なる国際的駆け引きにすぎないことを、軍事力という現実の次元で示したものとも言える。

 国際社会で二国家解決が議論される中、実際に「国家」の主要構成要素となる土地はイスラエルの攻撃により縮小し、そこに住むパレスチナ人の権利が国際的に守られることもない。そのような中、土地や生命を守るため、武器を取る選択をするパレスチナ人もいるであろうし、実際11月29日にハマースの報道官が、ガザ地区のラファフでイスラエル軍に降伏し武器を引き渡すことを同組織は拒否すると強調している。ハマースの武装解除に関する議論では、このような力学が背後にあることを知っておく必要があるであろう。

【参考】

サウジアラビア:二国家解決の実現をフランスとともに呼びかけ」『中東かわら版』No.39。

(研究員 平 寛多朗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP