№100 サウジアラビア:ムハンマド皇太子の米国訪問
- 2025湾岸・アラビア半島地域サウジアラビア
- 公開日:2025/11/21
2025年11月18~19日、ムハンマド皇太子(兼首相)は2018年以来となる米国への公式訪問を行い、トランプ大統領と会談した。同会談では、戦略的パートナーシップの一層の強化に向けた取り組みに加え、地域情勢や国際問題について幅広く意見交換が行われた。また、ムハンマド皇太子は対米投資額を従来の約6000億ドルから1兆ドルへ引き上げる意向を示した。
ムハンマド皇太子の訪米に際し、防衛やエネルギー、鉱物資源、先端技術など多岐にわたる分野で協力拡大に関する合意が発表された。特筆すべき取り決めは、以下の通りである。
■ 防衛
・戦略的防衛協定(SDA)の署名
・サウジアラビアへの米国製戦闘機「F-35」及び戦車300両の売却承認
・サウジアラビアの「主要非 NATO同盟国」への指定
■ エネルギー
・民生用原子力協力の交渉完了に関する共同宣言
・テキサス州の「レイクチャールズLNG」事業とルイジアナ州の「コモンウェルスLNG」事業への将来的な投資に関する覚書・合意
■ 鉱物資源
・重要鉱物サプライチェーンの多様化に関する協定
・米企業「MPマテリアルズ」によるサウジアラビアでのレアアース精錬所の建設計画
■ 先端技術
・戦略的人工知能(AI)パートナーシップの署名
・サウジアラビアのヒューメイン社と、米企業「AMD」及び「シスコ」による100MW規模のデータセンターの設置計画
・ヒューメイン社と米企業「ルマAI」による2GW級のデータセンター設置に向けた9億ドルの資金調達
評価
2025年1月の第二次トランプ政権の発足以後、サウジアラビアと米国が良好な関係を維持している中、ムハンマド皇太子の今次訪米が実現された。両国間での取り決めについては、今年5月のトランプ大統領によるサウジアラビア訪問時と比較して、防衛面での協力拡大が際立つ。戦略的防衛協定(SDA)の締結に加え、サウジアラビアが求めていた最新鋭ステルス戦闘機F-35の売却をトランプ大統領が承認したことは、米国がサウジアラビアの安全保障を重視する姿勢を改めて示すものと言える。
また、原子力協力でも大きな進展が見られた。10年以上にわたり両国間で続いてきた民生用原子力協力の交渉が妥結したことで、この先、米国企業がサウジアラビア国内で原子炉を建設する可能性が出てきた。サウジアラビアは、急増する電力需要に対応するため、2010年代から大規模発電が可能な原発の建設計画を進めてきた。さらに、原発の導入にとどまらず、国内のウラン資源を活用し、ウラン濃縮や使用済み核燃料再処理を含む核燃料サイクルの構築も目指してきた。
同協定にとって最大の障壁となってきたのが、サウジアラビアが求めるウラン濃縮技術の扱いであった。米国は2009年にUAEと原子力協力協定を締結したのを機に、他国との原子力協力を規定する米国原子力法の第123条において、①ウラン濃縮の放棄、②使用済み核燃料の再処理の放棄、という2つの義務を協定相手国に課す、「ゴールド・スタンダード」と呼ばれる新たな基準を導入した。このため、サウジアラビアが米国との交渉を妥結するには、濃縮・再処理技術の放棄を受け入れる必要がある。
現時点では協定の詳細は公表されていないものの、サウジアラビアが123条の規定を受け入れる可能性はあり得る。サウジアラビアにとって、米国との原子力協力により自国の原子力部門全体を米国の不拡散基準と国際的な監視枠組みの下に置くことは、国際社会からの信頼向上につながる。また、核燃料サイクルの構築に固執するよりも原発建設を優先し、米国原子力企業に市場参入の機会を与えることで、米国との関係強化を図る方が得策と判断している可能性もある。
【参考】
「GCC:トランプ米大統領のサウジ・カタル・UAE歴訪」『中東かわら版』No.14。
(主任研究員 高橋 雅英)
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