中東かわら版

№94 パレスチナ:ガザ地区における国際安定化部隊の構造的問題

 ここ数日、米国が主導するガザ紛争解決案が行き詰まりを見せつつある。2025年11月10日、アラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド大統領は、ガザ地区に派遣される国際安定化部隊(ISF)に同国が参加しないと表明した。

 ISFは、米政府が9月29日に公表したガザ紛争終結計画に盛り込まれた多国籍部隊である。同部隊は、ハマースとイスラエルに代わってガザ地区の治安維持を担い、同時にパレスチナ警察部隊の訓練および支援を行うことを目的としている。ガザ地区におけるハマースの排除と治安安定化を柱とするトランプ大統領の紛争解決案において、ISFは中核的な要素と位置づけられていた。

 米国は、このISFに国際的な正統性を与えるため、11月4日に草案を各国に配布し、6日から安保理で正式に協議に入っていた。ただし採決の見通しは立っておらず、協議が長期化すると見込まれていた。

 米国は、インドネシア、UAE、エジプト、カタル、トルコ、アゼルバイジャンがISFの主軸を担うと想定していた。実際、11月5日に米国はISFへの米兵参加を否定する一方で、これらの国々と部隊派遣に関する協議を進めていると発表した。

 このうちトルコの参加は、イスラエルが強く拒否する姿勢を継続して示している。アゼルバイジャンは、7日に停戦が完全に実現しない限り部隊を派遣しないと表明した。エジプト、カタルに関しては9日に電話会談し、ISFへの派遣の可能性に関する協議を行った。その際、両国はISFの任務と権限を明確に定義する必要があると、ISFの即時活動には慎重な姿勢を示した。

 インドネシアは10月16日に2万人規模の部隊を派遣すると表明したが、国連平和維持活動として位置付けており、国連の正式承認がないままISFに部隊を派遣するかは不透明である。また10月24日には、ヨルダンがガザ地区に部隊の派遣を行わない方針を明らかにしている。

 結果として、当初参加が期待されていた国々のいずれも、ISFへの具体的な部隊派遣を現時点で明確に打ち出せていない状況となっている。

評価 

 今般のUAEの部隊派遣の見送りの背景には、ISFへの部隊への派遣には高いリスクがある一方で、明確な利益が見いだせない判断があるとみられる。

 米国が安保理に提示した案では「平和理事会」と呼ばれる暫定統治機構がISFを設置し、ガザ地区で2年間任務するとされていた。一方で、平和理事会およびISFの権限等に関する詳細な内容は報じられていない。

 この不透明な内容に、パレスチナ諸派は懐疑的な見解を示した。11月8日、パレスチナの抵抗組織の1つであるイスラーム聖戦は、権限が明確ではない「このような国際部隊は受け入れられない」と明言した。9日には、パレスチナ人民党闘争戦線(PPSF)が、「和平計画」という名の米国委任統治であると非難している。

 従来からファタハも、外国人からなるISFのガザ地区駐留に否定的な立場を取っていた。実際、10月25日に国際部隊はガザ地区の外にいるべきだと述べている。ハマースも、11月4日に米国の国際部隊の計画は難しいとの見解を示している。

 パレスチナの主要な組織にとって、米国の構想するような外国人で構成されるISFは、イスラエルの代わりに駐留する新たな「占領者」として受け止められている。

 現状、ISFは国連の平和維持活動ではなく、ガザ地区の治安維持を目的として米国が主導し、いわば「外注」する形で設立を進めている部隊である。言い換えれば、国際的な正統性を欠いた組織といえる。

 そのような中、部隊を派遣することは、反発するパレスチナ諸派との衝突を招きかねないだけでなく、イスラエルに代わってガザを統治する「イスラエル寄りの勢力」とみなされる可能性もある。さらに、2年間にわたる派遣は参加国にとって相応の財政的負担を伴う。

 こうしたリスクに見合う明確な利益が見いだせないことが、ISFへの部隊派遣に対する各国の慎重姿勢につながっているとみられる。

 トランプ政権の示すガザ紛争終結案は、イスラエル、ハマース双方の話し合いの結果で作成されたものもではない。同政権が一方的に提示したものである。その構想はシャルム・シェイフ合意によって一定の国際的承認を得たものの、基本的には各国の利害を顧みず、米国の意向に沿った和平を押し進める形で進展している。今般のUAEの部隊派遣の見送りは、そのような米国が主導するガザ紛争解決案の構造的な問題点を露呈したものといえる。

(研究員 平 寛多朗)

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