中東かわら版

№93 イラン:婚資の払えない男たちを刑務所から「救う」法案が国会可決

 2025年11月9日、イラン国会は、「債務不履行に対する有罪判決及び民法の執行方法にかかる法律の条項改正法案」の総則を、賛成197、反対38、棄権7で可決した。今回の法改正により、妻から「婚資」(夫から妻への「結納金」の一種)の支払いを求められたにもかかわらず、請求金額の支払いができなかった場合、債務不履行を理由に夫を刑務所に収監するこれまでのやり方が改められ、アンクレット等の電子機器の装着によって夫の逃亡を防ぎつつ、通常の経済活動に従事させることで債務の返済を夫に求める方式となる。

 なお、今回は総則が可決されており、今後細則が追加される可能性もある。また、国会の可決した法に対して、憲法ないしイスラーム法に反するとして拒否権を発動する権限を有する護憲評議会が、同法を承認しない可能性もある。

評価 

 イランではインフレの進行によって、婚資に現金ではなく金貨(例えば8.33グラムの「自由の春」金貨)等が設定されることが一般的になっている。婚資は、通常夫婦が離婚した際に夫が妻に支払う(ただし、法的には妻が請求すればいつでも、夫に支払い義務が発生する)もので、婚姻時に取り交わす結婚契約にその額が明記されるが、法外な額が設定され、債務不履行に陥った男性が刑務所に収監されることが以前から問題となっていた。こうしたことから、国会は2012年に、夫が婚資として「自由の春」金貨を110枚支払えば、刑務所への収監を免れる(ただし妻への債務がなくなるわけではない)とする法律を成立させ、刑務所の過密化を防ごうとした。

 しかし、通貨の暴落によって、近年イランでは金貨の価格が高騰している。2024年3月下旬には1枚約3億6000万リヤールだった「自由の春」金貨は、1年後には約8億9800万リヤール、直近の11月10日には約10億5000万リヤールに暴騰しているのである。1ドルを100万リヤールと計算すれば、「自由の春」金貨は1枚1050ドルとなり、もし夫が110枚の金貨を支払うことになれば、11万5500ドルを用意しなければならなくなり、一般庶民にはとても支払える額ではない。なお、約15年前のある調査によると、調査対象となった夫婦の結婚契約で婚資に100枚以下の金貨が設定されていたのは7.6%だったのに対し、金貨101枚から300枚が25.4%、301枚から500枚が35.2%、501枚から1000枚が19.5%、1001枚から1500枚が11.9%もあったという。

 報道によると、昨年の時点でイラン国内には過失犯を理由に刑務所に収監されているのが1万5千人強おり、そのうち婚資の不払いによって収監されている男性が1910人、扶養費の不払いによるものが457人いたという(イランでは家族の扶養費を賄うのは、もっぱら夫の義務である)。今回可決された法案が正式に成立すれば、彼らは刑務所から釈放され、刑務所の過密化はある程度解消されるだろう。

 ただし、今回の法律は、結婚契約で定める婚資の上限を定めるものではない。法外な婚資が設定される風潮によって、男性の結婚への意欲が失われ、晩婚化が進む原因の一つになっているともされる。今年の1月下旬には、婚資の支払いを請求された夫が妻を殺害する事件が起きるなど、イランでは婚資の支払いを逃れるための殺人・暴力事件がときに報じられており、婚資が社会問題を引き起こしているとの指摘もある。

 他方、婚資は夫による妻への離縁の乱発を抑制するもので、今回の法改正は女性の権利をないがしろにするものだとの批判も多い。

(主任研究員 斎藤 正道)

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