№80 アフガニスタン:ターリバーン政権とパキスタンの間で停戦が合意
2025年10月19日、カタル・ドーハで行われた交渉の結果、アフガニスタン・ターリバーン政権とパキスタンの間で、緊急の停戦合意が結ばれた。停戦交渉は、カタル及びトルコの仲介によって行われたもので、25日にもイスタンブルで、両者の間で再度停戦交渉が行われる予定である。
11日夜に起きたターリバーン政権とパキスタンの戦闘は同夜半に停止していたが、アフガニスタン南部カンダハール州ショーラーバク郡で14日に起きた両軍の衝突によって再開していた。衝突はアフガニスタン東部ホースト州ジャージー・メイダーン郡ほかでも発生し、15日にはカンダハール州スピーンプールダクやパクティカー州に拡大し、パキスタン軍はアフガニスタンの首都カーブルを空爆するに至った。パキスタン軍もこれを確認し、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)の潜伏先を狙った精密爆撃だったと表明した。
この攻撃後、パキスタン及びターリバーン政権は48時間の停戦に合意し、停戦はアフガニスタン時間15日午後5時半に開始された。
17日午前、パキスタンの北ワジーリスターン州にある、アフガニスタン国境に近い軍駐屯地に対してTTPによるものとされる自爆攻撃があり、7名のパキスタン兵士が殺害された。同日午後5時半、ターリバーン政権とパキスタンの間の48時間の停戦が終了すると、パキスタン軍はアフガニスタン・パクティカー州バルマル郡及びウルグーン郡に対してドローン攻撃を実施した。この攻撃で、クリケットのアフガニスタン人選手3名が死亡するなど、民間人にも多数の死傷者が出た模様である。同軍はまた、アフガニスタンと国境を接する南北ワジーリスターン州にも空爆を実施していた。
評価
アフガニスタンとパキスタンの関係は、両国の建国以来最大の緊張状態にあるとも言われている。
緊張の高まりの背景には、アフガニスタン・ターリバーン政権と深い関係にあるとされるTTPによるパキスタン国内でのテロの他、同政権とインドが関係を深めていることが挙げられる。ターリバーン政権のモッタキー外相代行は9日から5日間の日程で行ったインド訪問で、4月22日にジャンムー・カシミール地方パハルガムで起きたテロ事件について、インドとの「連帯」を表明した。さらにターリバーン政権とインドの共同声明では、パキスタンとインドが領有権を争っているジャンムー・カシミール地方はインド領であることが謳われた。
こうした中、10日のターリバーンによるパキスタンへの越境攻撃について、パキスタンはターリバーン政権、バルーチ分離主義者及びパキスタン・ターリバーン運動(TTP)の三者による攻撃だと指摘し、さらにTTP支援国としてインドを非難した。
パキスタンのシャリーフ首相は16日、ターリバーンはインドの命令でパキスタンを攻撃したとの見方を示し、モッタキー外相代行のインド訪問時にターリバーンによる対パキスタン攻撃が行われたことを指摘した。同国のアーシフ国防相も、パキスタンはターリバーンだけでなく、インドからも攻撃を受ける可能性があるとの認識を示した。こうした中、パキスタンはすべてのアフガニスタン国民を代表する「民主的な」アフガニスタン政府への「レジーム・チェンジ」を考慮しているとも言われている。
14日、パキスタン政府はハイバル・パフトゥンフワ州にあるアフガニスタン人キャンプをすべて閉鎖し、同キャンプにいるアフガニスタン人を母国に強制送還するよう命じた。パキスタンのその他の地域でも、1週間以内のアフガニスタン人の退去が命じられており、アフガニスタンとパキスタンの関係悪化は、インド・パキスタン問題と絡みながら、西・南アジア地域の最大の不安定要素となっている。
【参考】
「アフガニスタン:ターリバーン軍とパキスタンが交戦」『中東かわら版』No.75。
(主任研究員 斎藤 正道)
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