中東かわら版

№78 イラン:シャルム・シェイフ和平会議に不参加

 2025年10月13日にエジプトのシャルム・シェイフで開かれた和平会議に、イランは参加を見送った。アラーグチー外相は13日付のXへの投稿で、開催地エジプトのシーシー大統領の招待に謝意を示しつつ、ペゼシュキヤーン大統領及び自身が招待を断った理由として、「イラン国民を攻撃し、我々を脅迫し制裁し続けている(国の)カウンターパートと関わることはできない」と記した。

 アラーグチー外相は同時に、「イランはイスラエルによるガザでのジェノサイドに終止符を打つような、いかなるイニシアティブも歓迎する」と述べて、イスラエルとハマースの停戦合意への支持を間接的に表明した。これに先立ち、イラン外務省は9日付の声明で、ジェノサイドの停止を保証するようなあらゆるアクション及びイニシアティブを支持すると述べていた。

 なお、シャルム・シェイフ和平会議には、シーシー大統領やトランプ米大統領のほか、英国、フランス、ドイツ、ヨルダン、トルコ、カタル、バハレーン、UAE、パキスタン、イラク、インドネシア、アゼルバイジャン、アルメニアといった国々の首脳・代表に加え、パレスチナのアッバース大統領やグテーレス国連事務総長、コスタ欧州理事会議長といった地域・機関の代表も出席した。日本からは、岩井駐エジプト大使が出席した。

 ペゼシュキヤーン大統領及びアラーグチー外相が不参加を決めたことに対し、イラン国内の改革派・穏健派からは批判の声が上がっている。

 穏健保守派のニュースサイト「ハバル・オンライン」は、イランは「第二次世界大戦以降最大級の世界会議」から自らを排除することで、「国際社会のリングの隅っこ」に自らを追いやったと批判した。同サイトはまた、エジプトをはじめとするアラブ諸国との関係を強化し、イランの国益と地域・世界の利益とを接続させる良い機会だったとの識者の見解を紹介している。

 経済紙「ジャハーネ・サンアト」も、地域諸国の首脳・高官が顔を揃える場を利用しない手はないとし、対イラン国連安保理制裁が一斉復活した現在、あらゆる外交機会を活用すべきだったと主張した。

 これに対し、強硬保守派の「ケイハーン」紙は、「シャルム・シェイフ」会議はその名のとおり、まさに「シャルム・アーヴァル」(恥さらし)な会議だとし、改革派はよだれが出るほど「交渉」したがっているが、それはトランプにイランへの軍事攻撃の口実を与えるだけだとして、同会議への出席を主張する改革派・穏健保守派を痛烈に批判した。

評価 

 イラン・イスラーム共和国が革命以来掲げてきた反米イデオロギーが、イラン政府による積極的な外交活動を阻害している。もしペゼシュキヤーン大統領あるいはアラーグチー外相が同会議に参加し、トランプ米大統領と一緒の写真に収まるようなことになれば、2015年1月にイランのザリーフ外相と米国のケリー国務長官(いずれも当時)がジュネーヴの通りをともに歩き、談笑した様子を写した写真が伝えられたときとは比べ物にならないほどの騒動を、イラン国内に引き起こす危険性があった。その場合、強硬保守派が支配する国会では、アラーグチー外相どころか、ペゼシュキヤーン大統領に対する弾劾すらあり得ただろう(大統領に対する弾劾は、バニーサドル初代大統領が罷免された1981年以来行われていない)。それゆえ、イランが和平会議への参加を見送ったことは、国内政治の観点から賢明な判断だったと言える。

 もちろん、このことは国際社会におけるイランの国益の問題とは別である。ある識者はイラン外交の特徴として「後手に回るプラグマティズム」と呼んでいる。「(米国を筆頭とする)抑圧者への抵抗」のスローガンが先に立ち、それに遅れてプラグマティックな外交が展開するため、イスラーム共和国の外交政策は課題の解決に対して「手遅れ」になる傾向にあることを指す表現である。その背景には、イラン・イスラーム共和国が自身の国内外の「支持母体」を繋ぎとめる必要に迫られていることがある。トランプ米大統領と一緒の写真に収まることは「抵抗勢力」の筆頭たるイランの声望を著しく損なうとの懸念が、イランにはある。

 シャルム・シェイフ和平会議の前日の12日、穏健保守派の大物であるナーテグヌーリー元国会議長は1979年11月に起きた在イラン米国大使館占拠事件について、「大きな間違い」だった、「多くの困難」をイランにもたらしたと述べて、強硬保守派の怒りを買ったが、同師の指摘どおり、「対米関係」はイラン外交に宿痾のようにつきまとっている問題と言えよう。

(主任研究員 斎藤 正道)

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