中東かわら版

№68 エジプト:トルコとの海軍合同演習実施とイスラエルに対する牽制

 2025年9月26日、エジプト海軍は、トルコ海軍と22日から26日まで実施した合同軍事演習を終えた。演習は「友情の海」と名付けられ、トルコのフリゲート艦、高速攻撃艦、潜水艦、F-16戦闘機のほか、両国海軍の艦艇が参加した。演習では、海軍艦艇へのヘリコプター着陸、洋上補給、複雑な航行編隊などの海上活動、さらに両国の特殊部隊による実弾射撃訓練を実施した。

 両国による合同演習は13年ぶりとなる。2013年、当時国防相だったシーシー氏らによりムルシー大統領が解任されて以降、両国関係は悪化し、大使召還により外交関係は事実上凍結していた。

 しかし、2023年7月に外交関係が回復して以降、両国の関係改善が進められている。2024年2月には、トルコのエルドアン大統領がカイロを訪問し、同年9月にはシーシー大統領がアンカラを訪問した。また、2025年5月にはエジプト軍のハリーファ参謀総長がアンカラを訪問し、トルコ軍の高官らと軍事協力について協議するなど政治面に加えて軍事面でも関係強化が進められていた。

 

評価 

 2025年8月半ば、イスラエルのネタニヤフ首相はエジプト、ヨルダン等の地域を含む「大イスラエル」構想を支持するような発言を行い、エジプトはこれに激しく反発した。また同月、エジプトは米国の関与を得てカタルと共に停戦案をイスラエルに提示したが、イスラエルはエジプトに返答を行わず、仲介国としてのエジプトの役割を軽視するかのような姿勢を示した。

 そうした中、今般のトルコ海軍との合同軍事演習は、エジプトにとってイスラエルに対する政治的・軍事的牽制の意味を有している。

 近年、イスラエルはトルコを地域的脅威と認識し始めている。例えば、ネタニヤフ首相寄りの論調で知られる『Israel Hayom』紙は、2025年7月に、地中海沿岸で核計画を加速させているトルコは「新たなイラン」であると報じ、トルコに警戒心を示している。さらに同紙は9月初め、トルコのエルドアン大統領の地中海・紅海支配の野心に従い、フィダン外相がイスラエルとの貿易遮断、港の閉鎖、空域制限を発表したと伝えた。イスラエルの対外貨物のほぼ全てが地中海ルートに依存しているため、トルコが東地中海をその影響下に置くことはイスラエルにとって深刻な事態を招きかねない。

 トルコに対する警戒心に加え、エジプトがNATO型のアラブ合同軍事力の創設を模索していると、イスラエルのメディアが9月半ばに報じた。このエジプトの動きは、9日にイスラエルがカタルを爆撃したことを受けたものであり、エジプトがイスラエルの攻撃に対抗し得る軍事力を志向している姿勢を示したものといえる。エジプトの政府系メディアから「アラブ版NATO」の創設に関する公式発表はされてないものの、イスラエルのメディアはアラブ合同軍の設立の動きは、既存のイスラエルとアラブの和平枠組みに打撃を与えると報じていた。

 今般のエジプトとトルコの合同演習は、こうした状況の中で行われた。一部報道によれば演習はトルコ南西部のアクサズ海軍基地で行われており、イスラエルとの距離が近いエジプトの地中海側では行われていない。イスラエルを刺激しないよう配慮したものとみられるが、イスラエルに対してメッセージを送るのには十分な効果があり、イスラエルのメディアはエジプトとの安全保障協力の変化の可能性に懸念を示した。

 合同演習を通して、エジプトにはトルコと軍事協力を強化する選択肢があることを示すことで、仲介国としてのエジプトを過度に軽視する姿勢や領土拡張主義的なイスラエルの姿勢を牽制する形となった。

 また、合同軍事演習は国連総会で一般演説が行われる期間に行われている。今次の国連ではフランスがパレスチナを国家として承認することが予定されていた。それに反発し、イスラエルが国際法を無視した軍事行動を、ヨルダン川西岸地区及びガザで行わないよう牽制する意味も今般の演習にはあったとみられる。

(研究員 平 寛多朗)

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