中東かわら版

№69 UAE:米国がUAEに先端AIチップを輸出へ

 2025年10月9日、米通信社「ブルームバーグ」は、米商務省産業安全保障局が今年5月に米国・UAE間で合意したAI協定に基づき、AI(人工知能)半導体の大手「NVIDIA」のUAE向け輸出ライセンスを発給したと報じた。同協定では、UAEのアブダビに5ギガワット(GW)規模のデータセンターを建設し、米企業「OpenAI」も事業に参画する計画となっている。また米国は年間最大50万個の先端AIチップ輸出を承認する見通しで、そのうち約5分の1がアブダビのAI大手「G42」に供給される予定である。

 

評価 

 UAEはこの10年、AI産業の育成を国家の優先事項の1つとしてきた。2017年に「AI国家戦略2031」を発表し、2031年までにAI分野を牽引する世界のリーダーになるという立場を明確にした。AI担当の大臣ポストを新設した他、2019年にはAI人材育成を目的に、現大統領(当時皇太子)の名を冠したムハンマド・ビン・ザーイド人工知能大学(MBZUAI)をアブダビで開設し、人材育成を推進している。また、米国やフランスなどの諸外国とのAI分野での協力を深めつつ、NVIDIAから最先端AIチップの大量調達を目指してきた。一方の米国は、バイデン前政権下で、UAEがロシアによる制裁回避の「中継地」となっていることや、中国との経済的繋がりを理由に、輸出に対して慎重な姿勢を崩さなかった。

 今回のトランプ政権によるUAE向け輸出承認の背景には、UAEの大規模な対米投資への見返りというという側面がある。今年3月、タフヌーン・ビン・ザーイド国家安全保障顧問が訪米してトランプ大統領との会談で、今後10年間に1兆4000億ドルを米国へ投資する意向を表明した。また、5月にトランプ大統領がUAEを訪問した際には、両国間で2000億ドル超にのぼる経済取引が発表された。ただ、5月のAI協定署名から輸出承認までに大幅な時間を要していたことで、UAE側だけでなく、米企業からも承認プロセスの遅延に対する不満が出ていた。

 UAEをはじめとする湾岸産油国は、拡大するAI需要と潤沢な資金力を背景に、NVIDIAやOpenAIなど米国の大手テクノロジー企業にとって世界有数の重要市場であり、資金供給源となっている。この点を踏まえると、今後トランプ政権はサウジアラビアへの先端AIチップ輸出の拡大にも動くと考えられる。

 

【参考】

「GCC:トランプ米大統領のサウジ・カタル・UAE歴訪」『中東かわら版』No.14。

「UAE:ムハンマド大統領のフランス訪問、フランスAI産業への大規模投資」『中東かわら版』2024年度No.123。

(主任研究員 高橋 雅英)

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