中東かわら版

№67 モロッコ:若者主導の抗議デモの広がり

 2025年9月27日より、モロッコ各地で教育・医療分野の改革を求める若者主導の抗議デモが続いている。その発端となったのは、南西部アガディールの公立病院で、設備や医療スタッフの不足により8人の女性が出産中に死亡した事件である。その後、抗議の動きはアガディールからラバト、カサブランカ、マラケシュなど主要都市へと急速に拡大した。10月1日には、アガディール近郊の町レクリアでデモ隊が警察署を襲撃しようとし、治安部隊の発砲を受けて3人が死亡する事態に発展した。

 今次のデモは、ディスコード(Discord)などのSNSを通じて結集した自称Z世代の若者たちが主導しており、国際電話のモロッコの国番号に由来して「GenZ212」と名乗るグループを形成している。彼らは、教育や医療分野での緊急改革を要求する他、2030年にモロッコで開催されるサッカー・ワールドカップに向けて政府が新たなスタジアム建設に多額の資金を投じていることを強く非難している。

 若者主導の抗議デモの広がりを受け、アハンヌーシュ首相は10月2日、政府は若者の要求と向き合い、対話の準備があることを表明し、速やかな抗議の収束を図る姿勢を示した。

 

評価 

 デモの発生要因とされるモロッコの脆弱な医療体制、とりわけ人員不足の問題は、COVID-19の感染拡大期にすでに表面化していた。その後も医療従事者や学生、労働組合が一貫して改善を求めてきたが、政府は抜本的な改革を実現できなかった。一方、政府は2030年ワールドカップに向け、スタジアムの新設・改修やケニトラからマラケシュへの高速鉄道延伸、カサブランカ・ラバト・マラケシュの都市鉄道整備などに、総額87億ドルを投資する計画である。こうした巨額の投資表明が公共サービスの逼迫との対比から、国民の間で強い反発を招いたと考えられる。

 この先、アハンヌーシュ政権が抗議主体「GenZ212」と対話を進め、反政府デモを乗り切れるかが注目される。同グループはSNSを通じて結集した若者たちによって構成されており、明確な指導者を欠いている。そのため、政権が強調する「対話路線」に基づき問題解決を図ろうとしても、具体的な交渉相手を見出すことは難しいだろう。ただ、これらの若者は既存政党や政治家に対して根深い不信感を抱いているため、イスラーム主義政党「公正開発党(PJD)」など野党勢力と連携し、政権打倒を目指す可能性は低い。いずれにせよ、アハンヌーシュ政権が巨額の投資計画を維持しながら、混乱収束のために新たな社会開発プログラムの実施を迫られることで、モロッコ財政の深刻化が懸念される。

(主任研究員 高橋 雅英)

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