№62 イラン:ロシアと原子力発電所の新設に合意
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/09/30
2025年9月26日、国営イラン通信(IRNA)は、イラン・ホルモズ社とロシア国営原子力会社「ロスアトム」との間で、250億ドル規模の原子力発電所の建設契約が締結されたと報じた。同契約では、イラン南部のホルモズガーン州シーリークに1.255ギガワット(GW)の出力を持つ原子炉4基が建設され、発電設備容量は約5GWに達する見通しである。
評価
イランでは2013年より、中東初の原発となるロシア製のブーシェフル原発(1GWの原子炉1基)が商業運転している。こうした中、イランが原発増設を推し進める背景には、急増する電力需要に対応しながら、化石燃料に依存する電源構成を多角化する狙いがあると考えられる。イランの発電電力量は2024年に395テラワット時(TWh)に達し、中東ではサウジアラビアに次ぐ規模となった。2014~2024年の年平均成長率は約4%に上り、人口増加などを背景に今後も需要拡大が見込まれる。このため、主力電源のガス火力発電に比べ、少量の燃料で大規模発電が可能な原発の役割に期待を寄せている。また、原発増設により発電用ガスの消費拡大を抑えられれば、輸出余力を確保し、天然ガス収入の拡大につながる可能性もある。
ロシアは現在、イランやトルコ、エジプトといった中東で複数の原発事業に関与している唯一の国である。1995年にイランとのブーシェフル原発の建設契約を機に中東の原発市場に参入し、その後2010年頃より中東で原子力外交を積極的に展開して、原発の新設に係る合意を取り付けた。ロスアトムは、トルコのアックユ原発やエジプトのダバア原発の建設を担うほか、トルコ黒海沿岸のシノップ原発(5.2GW)やサウジアラビアでの原発(2.8GW)といった新規案件にも関心を示している。
イランは2025年1月中旬に、ロシアとの間で戦略的包括協力協定を結び、同年5月中旬にはロシアを中心とするユーラシア経済連合とイランとの間で結ばれた自由貿易協定が発効するなど、イランとロシアは経済的な結びつきを深めつつある。今回の原発建設契約の締結に先立つ9月18日、ペゼシュキヤーン大統領はイランを訪問したロシアのツィビレフ・エネルギー相との会談で、イランはロシアとの間で結ばれた合意の実施を真剣に追求していること、協力に向けた必要なすべての素地が整っていることを強調し、「友人であり同盟者である」イランとロシア両国のより一層の関係拡大によって、「一方主義的な国々に依存することなく」自国を発展させる、独立諸国間の「協力モデル」を証明することに期待を表明した。
あるイラン人識者は、西側の制裁にともに直面するイランとロシアがエネルギーや運輸の面で協力を深化させることによって、イランは自国の深刻なエネルギー不足を解消させるだけでなく、「グローバル・サウス陣営」の強化に結びつけることが可能になるとの夢を語っている。しかし、(増加傾向にあるとはいえ)2024年のイランとロシアの貿易規模は48億ドルにすぎない。ロシアのノヴァク副首相によると、貿易規模が約40億ドルだった2023年には、ロシアからイランへの輸出が約27億ドル、イランからロシアへの輸出が約13億ドルで、イランはロシアとの間で大きな貿易赤字を抱えている。自国通貨による決済システムの構築を目指すイランが、どのようにしてロシアとの間で経済関係を発展させることができるのかが注目される。
【参考】
高橋雅英「中東の原子力発電市場におけるロシア――燃料供給国としての強み」『中東研究』第547号、2023年5月。
(主任研究員 高橋 雅英)
(主任研究員 斎藤 正道)
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