№60 イラン:ハーメネイー最高指導者が米国との交渉の可能性を否定
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/09/24
イラン暦7月の月初め(新学年の開始日)にあたる2025年9月23日、ハーメネイー最高指導者はテレビ演説を行い、「イラン国民の団結」、「ウラン濃縮活動」及び「米国との交渉」の3つのテーマについて、自らの立場を明らかにした。
ハーメネイー師はまず、「イラン国民の団結」について、敵は軍高官等の殺害によってイラン国内に暴動が発生することを期待したが、それは失敗に終わったと指摘した上で、敵はイラン国内の民族対立を煽ろうとしているが、イラン人であることに誇りを抱いている各民族は一丸となって、「敵の脳天」に「硬き鋼鉄の拳を振り下ろすだろう」と述べて、国内の団結に期待を表明した。
次にハーメネイー師は、「ウラン濃縮活動」に関し、イランの濃縮能力は極めて高いレベルにあるとした上で、「我々は(核)兵器を必要としておらず、核兵器の非所有を決意している」としつつ、「我々は、極めて高い数字である60%にまで高めた。非常に良い数字であり、国内で必要とされる一部の仕事に必要である」と指摘し、「我々はこの能力を有している世界10カ国の一つである」と述べて、自国が非常な労苦とコストとともに獲得した「偉大な成果」を無に帰すことなど、「イラン国民のような誇り高き国民」には「受け入れられない」ことだと強調した。
最後に「米国との交渉」について、ハーメネイー師は「現状において、米政府との交渉は第一に国益に何ら資するものではなく、我々に一切の利益をもたらさず、我々に対するいかなる害悪も取り除くものではない」と述べ、さらに米国との交渉によって「取り返しのつかない」「大損害」すら生じると指摘して、交渉の可能性を完全に否定した。
その理由として、ハーメネイー師は、(1)米国の要求はイランによる濃縮活動の停止であり、交渉の過程でその要求を取り下げる見込みもないため、米国との「交渉」は実際には米国によるイランへの「命令」「強要」にすぎないこと、(2)そうした「交渉」に応じなければ攻撃するという米国の「脅迫」に応じれば、イランが弱腰で臆病な国であることを(世界に)示すことになり、米国のイランへの要求はウラン濃縮活動からミサイルその他へとエスカレートすること、(3)そもそも米国の求めているものとは、イランの屈服であり、イラン国民の気高さを破壊することにあること、(4)2015年の核合意の経験からわかるように、米国との妥結によってイランに利益がもたらされるという約束は「嘘」であり、国連安保理等での核問題めぐるイランへの圧力は「数倍」に膨れ上がったこと、を指摘した。
ハーメネイー最高指導者はこのように見解を述べた上で、核問題及びその他の諸問題のための米国との交渉は、イランを出口のない袋小路に追い込むだけだとし、イランが取ることのできる唯一の解決策は「国の進歩」「国の強化」「軍事力の強化」「科学力の強化」「国の政府機関・構造・組織の強化」しかないと断言した。
評価
9月19日に国連安保理で対イラン国連安保理制裁停止継続決議が賛成4、反対9、棄権2で否決され、対イラン制裁の一斉復活が間近に迫る中、ペゼシュキヤーン大統領の国連総会出席の機会に重要な妥協がイラン側から示される可能性に一縷の望みが託されていたが、今回のハーメネイー最高指導者の演説によって、イラン核問題をめぐって同国と西側諸国との間で合意が結ばれる可能性は、少なくとも短期的には潰えたと言えるだろう。
スナップバックの発動によって、イラン国内では、9月9日にイランとIAEAとの間で結ばれた査察実施手順に関する合意の破棄はもちろん、NPT脱退論すら勢いを得ており(例えば9月20日付「ケイハーン」紙に掲載されたシャリーアトマダーリー発行責任者の論説)、9月22日には71名の国会議員が国家安全保障最高評議会及び三権の長に宛てた書簡の中で、イランの防衛ドクトリンの見直しを求めるまでになっている。この書簡では、核兵器の使用はハーメネイー最高指導者のファトワーによって禁止されているが、抑止のための(核兵器の)製造と保有は「別の議論」だと主張されており、イランの核保有国化に向けた一歩が踏み出されたことは否定しがたいように思われる。
今回の演説でハーメネイー最高指導者は、イランは「原子力爆弾を保有しておらず、保有する予定もなく、核兵器を使用するつもりもない」と述べたが、こうした議論ではしばしば繰り返している「大量破壊兵器はイスラーム法上禁止されている」という主張を展開することがなかったことも気がかりである。
ハーメネイー師は演説の最後で、「国の強化」こそ現状を打開する唯一の解決策であると主張しているが、「国の強化」は一朝一夕には不可能である。同師の見据える問題の根本的解決は、それこそ数十年単位の「超長期的」なタイムスケールのものなのかもしれない。
(主任研究員 斎藤 正道)
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