中東かわら版

№59 イラク:アメリカが人民動員隊の4派をテロ組織に指定

 アメリカの国務省は、人民動員隊の傘下団体である「ヌジャバー運動」、「サイード・シュハダー部隊」、「敬虔なアンサール・アッラー運動」、「イマーム・アリー部隊」の4派をテロ組織に指定した。国務省は今般の指定を、「中東でのイランの影響力」に対抗し、アメリカ権益に対するイラン政府に支援された武装勢力の脅威を抑えるためと説明した。

 なお、人民動員隊からは、2020年に「ヒズブッラー部隊」と「アサーイブ・アフル・ハック」がアメリカ政府によってテロ組織に指定されている。

評価

 人民動員隊は、2014年に「イスラーム国」がイラクでの占拠地を急速に拡大した際にシーア派の宗教界の呼びかけによって形成された民兵諸派の連合体である。人民動員隊は、「イスラーム国」を前に敗走したイラク軍や、大規模な地上部隊の派遣を避けようとしたアメリカなどの諸国に代わる地上戦力として「イスラーム国」対策の前面に立ち、2016年にはこれをイラクの治安部隊の一翼と規定する法規が制定されている。また、人民動員隊の形成の際には、イランから兵器や訓練が提供された。一方、人民動員隊傘下の諸派の中には、イラクの与党連合に参加する諸党派の民兵組織や、イラン型の国家観や統治制度を支持する民兵(これらは「イランの民兵」と呼ばれる)、2023年の「アクサーの大洪水攻勢」以来のイスラエル・アメリカ陣営と「抵抗の枢軸」陣営との紛争で、「イラクのイスラーム抵抗運動」を称してイラクやシリアにあるアメリカ軍基地やイスラエルを無人機などで攻撃した諸派も含まれる。

 このため、人民動員隊諸派はたびたびアメリカ軍の攻撃を受けており、その処遇は「国家による武力の独占」という観点からイラクの政局と2025年中に実施予定の国会議員選挙での争点となっている。アメリカにとっても、「抵抗の枢軸」陣営の一角としてアメリカやイスラエルを攻撃する諸派の解体は重要な目標である。しかし、イラクには2000年代に「イスラーム国」の前身である「イラク・イスラーム国」の討伐に「覚醒評議会」という民兵を起用したが、治安機関への統合などを含む「覚醒評議会」の処遇に失敗したことにより2014年の「イスラーム国」の伸長を招いた経験がある。現在も「イスラーム国」の復活の可能性を指摘する国・機関は少なくないため、人民動員隊への措置や処遇を誤れば、イラクの政情や治安を悪化させる要因となるだろう。

(特任研究員 髙岡 豊)

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