中東かわら版

№56 イスラエル・カタル:ドーハ空爆の影響

 2025年9月9日午後、イスラエルがカタルのドーハを空爆した。標的は同市在住のハマース幹部で、空爆により彼らが滞在する市内北部ウエスト・ベイ・ラグーン地区にある住宅が半壊した。同住宅近辺にはウクライナ、キューバ、ギリシャ等、多数の大使館がある。報道によれば、空爆でハマース幹部5名、カタル治安部隊員1名(伍長)、他1名(公人かどうか不明)が死亡し、行方不明者と負傷者も出ている模様だ。

 イスラエル側は空爆実施を認めており、これを「ガザ戦争の早急な終結への道を拓くもの」(ネタニヤフ首相)と訴え、ハマース側が生存を主張する同派の最高幹部かつガザ停戦交渉の責任者であるハリール・ハイヤについても、死亡したとの見方を示した。また今次空爆は、実施直前に米軍経由でトランプ米大統領に伝えられたとされる。

 一方、カタルは今次空爆を「犯罪行為」として強く非難した。また、トランプ米大統領は空爆実施の前にこれをカタルに連絡したと主張するが、カタル外務省によれば連絡は「爆発音が聞こえる最中に」あった(アンサーリー外務報道官)。なおカタル政府は、ガザ戦争の停戦及び人質解放交渉は継続すると述べた。

 

評価

 ガザ戦争の余波でカタル領土が攻撃を受けたのは2度目である。1度目は2025年6月23日のイランによるウダイド空軍基地(米軍他駐留)へのミサイル攻撃で、この時はイランによる事前連絡があったことをカタルが認め、人的被害も報じられなかった。米国権益への報復攻撃をしないと面子が保てないイランにカタルが配慮し、これを周辺国も理解した、いわばよくできた「ショー」であった。事実、これでカタル・イラン関係が悪化することはなかった。

 一方、今次攻撃はカタルとイスラエル・米国側との間で、空爆実施の経緯についての食い違いが見られる。国内には非常事態宣言が出されておらず、フラッグキャリアのカタル航空も早々に通常運航を発表した。つまりカタルとしては、イスラエルによるさらなる攻撃は「ない」と把握しつつ、イスラエル・米国の筋書きを完全に受け入れているわけではない、ということだろう。

 加えて重要なのは、これまでガザ戦争の展開の中でイスラエルが攻撃してきた第三国がイラン陣営(レバノン、シリア、イラン)、すなわち欧米諸国や周辺アラブ諸国がある程度は看過できる標的だったのに対し、カタルは米国のMNNA(非NATO軍事同盟国)であり、周辺諸国との戦略的な関係を築くGCCの一員だという点である。イスラエル支持のためであれば、同盟国への軍事攻撃(暗殺工作などではなく空爆)にも米国はゴーサインを出すとの実績は、ガザ戦争を通じて醸成された中東における対米不信を今後一層強めるだろう。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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