№32 エジプト・ヨルダン:イラン・イスラエル情勢とパレスチナ問題
2025年6月22日、米国によるイランの核施設攻撃を受け、ヨルダン外務省とエジプト外務省は、それぞれイラン情勢に対する「深い憂慮」を表明した。翌23日には、イランによる在カタル米軍基地への攻撃に対し、両国はカタルの主権を侵害し国際法に反するとして非難する声明を出した。
一方、23日ヨルダンのアブドッラー2世国王は、オマーンのハイサム国王と電話会談を行い、イスラエル・イラン情勢に加えて、ガザ地区における即時停戦、人道支援の確保、ヨルダン川西岸地区とエルサレムにおける情勢の緩和が必要であると訴えた。同日、エジプトのシーシー大統領は、イスラエル・イラン間の緊張についてギリシャのミツォタキス首相と電話会談を行い、このエスカレーションがガザ地区の悲劇に影を落すべきではないと強調した。
評価
6月13日のイスラエルによるイランへの攻撃を契機として、ミサイル、ドローンを用いた双方による軍事的応酬が始まった。こうした緊張の高まりに対して、イスラエルと国境を接するエジプトとヨルダンは、一貫して双方に最大限の自制を求める姿勢をとっており、核協議の再開と外交的な手段を通じた平和的解決を呼びかけてきた。その実現に向けて、両国は会談などを通じた外交的な働きかけを活発化させていた。
両国が行う会談では、イスラエル・イラン間の緊張緩和に向けた方策が話し合われる一方で、パレスチナ情勢についても継続的に協議されてきた。サファディー副首相兼外相は14日にスペイン外相、15日にイタリア外相、16日に欧州連合外務・安全保障担当上級代表とそれぞれ会談を行い、イスラエルによる対イラン攻撃を取り上げる一方で、ガザにおける即時停戦と人道支援の確保の必要性を強調した。17日にはアブドッラー2世国王が欧州議会本部で演説を行い、イスラエル・イラン問題とともに、日々悪化するガザ地区やヨルダン川西岸地区の状況を訴えた。23日にはシュイツァ地中海担当欧州委員と電話会談を行い、イラン情勢と同時にガザ地区の深刻な状況についても協議している。また、ヨルダンの政府系メディアでは連日、悪化するガザ、ヨルダン川西岸地区の情勢が報じられている。
エジプトに関しても同様である。アブドゥルアーティー外相は13日、カタルやサウジの外相と電話会談を行い、イスラエルの攻撃によるパレスチナ問題への影響について協議した。また14日のドイツのワデフル外相との会談でもガザ情勢が取り上げられ、ガザにおける即時停戦と人道支援の確保に向けたエジプト、カタル、米国による仲介努力について話し合われた。同日、シーシー大統領はトルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、ここ2週間でイスラエル兵がパレスチナ人90名を殺害していることを非難し、2国家解決の重要性を強調している。イラン情勢をめぐるほぼすべての会談で、パレスチナ問題が併せて取り上げられており、22日にシーシー大統領がオマーンのハイサム国王と行った電話会談でも、イスラエルによって引き起されているガザの人道的大惨事、即時停戦と人道支援の必要性が強調された。
このような状況は、ヨルダン、エジプト両国がイスラエル・イラン間の問題とイスラエル・パレスチナ間の問題を、切り離された個別の問題ではなく、相互に関連する一体的な問題として捉えていることを示す。ヨルダンとエジプトは長年パレスチナ問題の解決に従事してきた一方で、今般のイスラエルとイランの軍事的緊張関係における当事者ではない。しかし、今般の軍事的緊張によって、飢餓などガザにおいて引き起こされている人道的問題が、イスラエル・イラン間の問題に隠れてしまうことは看過できないものであろう。そうした中、イスラエルの攻撃によって引き起こされた軍事的緊張の緩和を求める活動をするとともに、ガザにおける状況を風化させない外交を展開してきた。
今後、これらの外交努力がどのように結実するのかは不透明であるものの、両国の地域的役割が改めて浮き彫りになったといえる。
(研究員 平 寛多朗)
◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/