中東かわら版

№30 カタル:イランによるミサイル攻撃を経た反応と思惑

 2025年6月23日、ドーハのウダイド空軍基地(カタル、米国、英国他の各空軍が駐留)をイランが攻撃したことを受けて、カタル外務省は報道官声明を通じて以下概要の通り述べた。

●イラン革命防衛隊による今次攻撃はカタルの主権・領空・国際法・国連憲章の侵害である。

●カタル空軍はイランのミサイル攻撃の迎撃に成功した。

●今次攻撃のような行動が続けば地域の安全が損なわれ、国際的な平和・安全を脅かす壊滅的な結果につながる。全ての当事者は直ちに軍事行動を停止し、交渉のテーブルに戻って対話を再開する必要がある。

●カタルはイスラエルの強硬化が地域に与える危険を真っ先に警告した。カタルとしては対話こそが現在の危機を克服する唯一の方法との立場から、引き続き外交的解決を呼びかける。

 なお以上による人的被害は報じられていない。また外務省は、イランの攻撃を受けて領空を封鎖したが、本稿執筆時点では、同措置が解除されたと民間航空局が発表している。

 

評価

 上記概要の通り、イランの攻撃に関する声明は、イランのみを強く非難するものではなく、むしろイランを追い込んだ「当事者」たるイスラエルを非難する向きが見られる。既に18~19日の時点で、ウダイド基地の主要な米軍機及び人員は撤収・避難したとの報道や、イランが事前にカタルと米国に同基地攻撃を通達していたとの報道も見られる。これら諸点を踏まえれば、イランのカタルへのミサイル攻撃は、米国権益に攻撃しなければ体面を保つのが難しい状況になったイランに、カタルが最低限の協力をした結果、と見ることができよう。

 同様に他のGCC諸国も、軒並みイランの軍事行動をカタルの主権等の侵害として非難するが、イランとの関係悪化はやむなしとする主張はほぼ皆無である。多くは上記のカタルの声明同様、今次攻撃のような状況を終わらせるためには外交的解決が必要だとする、つまりはイスラエルの軍事行動を制止することを事態打開の第一歩と位置づけている様子がうかがえる。

 カタルはバイデン大統領期、米国のMNNA(非NATO軍事同盟国)に指定されるなど、GCC諸国の中でも米国とは屈指の戦略的関係を有する。一方でイランとも協調関係を維持し、そのことが対米関係をさらに強固とするカードとしても機能してきた。今次攻撃は、これら両国と密接な関係にあるカタルだからこそ引き受けることができたイランの報復、ということになるだろう。こうした「大人」の幕引きの試みに、イスラエルが納得するかどうかが今後の注目点となる。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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