№28 ヨルダン:ヨルダン空軍、イランからのミサイルを迎撃
2025年6月15日、ヒヤーリー軍広報局長は記者会見の中で、「紛争当事者の一方が東から西へとドローン、弾道ミサイル、巡航ミサイルを発射し、ヨルダン領空を通過させることでヨルダンを紛争に巻き込もうとしている」と述べた。その上で、ヨルダン空軍と防空システムは先週の木曜以来、継続してヨルダン領空に侵入するドローンとミサイルを迎撃していると強調した。翌日16日、ムーマニー政府広報担当相は、イスラエルとイランの間の緊張が高まって以来、アブドッラー2世国王が一貫して紛争、敵対行為のためにヨルダンの領空、領土を使用することを認めないと述べてきたと強調した。
評価
ヨルダンは、昨年4月と10月にイランが弾道ミサイルでイスラエルを攻撃した際と同様に、今回のイランによる攻撃に際しても、領空に侵入したミサイルを迎撃した。ヨルダン側は、この措置が電子機器の故障等による誤爆から自国領土および国民を守るためであると説明している。
ヨルダンは1994年にイスラエルと平和条約を締結しており、イスラエルの隣国として戦略的に重要な位置にある。また、ヨルダンは、米国から年間16.5億ドルの経済援助を受けており、本年も約14.5億ドルの支援が予定されている。そのうち8.5億ドルは無償支援となっている。米国議会調査局のウェブサイトに掲載された報告書では、ヨルダンがイスラエルと平和的関係を維持していることが強調されており、この関係が支援の背景にあることが示唆されている。こうした関係を踏まえれば、ヨルダンとしては、イスラエルを標的とする弾道ミサイルが領空内を通過することは看過できないであろう。
一方で、パレスチナ系の住民を多く抱えるヨルダンにとって、「親イスラエル」的な行動は国内政治に影響を与える可能性がある。昨年、イスラエルを標的としたイランの弾道ミサイルをヨルダン領空内で迎撃した際には、政府の姿勢に対する批判が国内で生じた。中東・北アフリカにおける意識調査を行っているアラブバロメーターの調査によれば、ヨルダン人の多くは、イスラエルがガザで行っていることはジェノサイドであると認識しており、イスラエルを守る政府の行動に不満が高まった。その結果、昨年末に実施された議会選挙では、パレスチナ支持のデモなどを行っていたムスリム同胞団を母体とするイスラム行動戦線の躍進を招いた。
今回の事案が発生した後、ヨルダンは継続してイスラエルの攻撃を国際法に違反する行為であり、地域的な緊張を高めるものであると非難してきた。16日には、エジプトなどをはじめとするアラブ・イスラム諸国20カ国と共にイスラエルを非難する共同声明を出した。このような対応は、イスラエルの隣国という戦略的に重要な地理的立場にあるヨルダンが、外交関係と国内情勢という複雑に絡み合う要因の中で、バランスを取らざるを得ないという政治的現実を浮き彫りにしている。今後もヨルダンには、地域情勢と内政の双方に配慮した、困難なかじ取りが求められるであろう。
(研究員 平 寛多朗)
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