中東かわら版

№26 イスラエル:イランへの勝利に向けたシナリオ

 2025年6月13日に始まった対イラン軍事作戦「立ち上がる獅子」を通じて、イランの軍・インフラ・メディア及び要人への攻撃が連日行われている。16日のG7共同声明は、ガザ地区での停戦要求やイラン・イスラエル間の緊張緩和の必要性等、イスラエルに軍事行動の自制を求める姿勢を見せつつ、イランを中東地域の不安定化と恐怖の主要因と断定し、同国の核兵器保有を決して容認しないこと、またイランに対するイスラエルの自衛権を認めること等、「立ち上がる獅子」作戦を事実上容認する姿勢を示すものであった。

 一方、同作戦の目標(イスラエルにとっての勝利のコンセプト)は現時点で必ずしも明確ではない。イスラエルにとってのイランの脅威の内、ハマースやヒズブッラー等、自国を攻撃する民兵組織への軍事的支援については2023年10月以降のガザ戦争を通じてほぼ排除することに成功した。残るは核兵器、及び自国への敵意によって成り立つイラン現体制の2つである。この点を踏まえ、現状想定されうる目標は、①イランの核施設の完全破壊、②ハーメネイー最高指導者の殺害の2つであろう。

 

評価

 まず①については、米国保有の大型地中貫通爆弾(バンカーバスター)が必要とされる。つまり米国を直接に軍事介入させる必要がある。仮にイランないし親イラン勢力による域内の米軍基地への攻撃が確認されれば、これが実行される可能性が高い。

 一方の②は、米国の軍事介入を要さず、イスラエル単独で実行可能に思われる。ただしこれに踏み切るとイラン情勢がどうなるかが見通せず、地域の不安定化につながりうる。核の脅威を排除することを支持する国々も、これについては反発する可能性が高い。イスラエルとしてはこの責を負いたくはないだろう。

 そう考えれば、イスラエルが理想とする勝利へのシナリオは、イラン国内での革命の誘発である。現在進行中のイラン国内の統治能力の破壊は、あわよくばイラン国民が自発的に現体制を転覆させる(ハーメネイー最高指導者の処刑、国外逃亡等を含む)ための地ならしの意味もあるだろう。ただしこれは他人任せなシナリオであり、当面は上記①②に向かうと思われる。

 この点で、イランへの脅威認識をG7の共同声明を通じて欧米諸国と共有できたことは、ネタニヤフ首相にとって強い追い風である。ガザ戦争が終われば同首相の政治生命も終わりを迎える可能性が高い。有事が続いている内に、この四半世紀の間、自国及び欧米主導の「国際社会」にとって最大の脅威であり続けるイランを無力化し、「英雄」となることが、彼の政治生命を救う最も有効な手段である。

 

【参考】

「イスラエル:イランの無力化と国際社会への牽制を兼ねた軍事展開」『中東かわら版』2025年度No.25、2025年6月13日。

「イラン:イスラエルがイラン各地を攻撃」『中東かわら版』2025年度No.24、2025年6月13日。

(研究主幹 高尾 賢一郎)

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