中東かわら版

№23 シリア: 海水浴場・プールなどでの服装規制の強化

2025年6月10日、観光省は、海水浴場、プールなどでの水着を規制する通達を発表した。通達は公益に基づくものとされ、「よりつつましやかな」水着、女性には「ブルキニ」(注:頭髪や体全体を覆う水着)か体を覆う水着の着用が求められる。また、海水浴場・プールの外に出る際はゆったりした衣類を羽織ることが求められる。男性についても、ホテルのレストランやホールでは胸を露出させないことが求められる。通達は、観光客・訪問者に対しても「一般の感覚や社会様々な人々の感覚に沿った水着の着用」が求められる。また、水着としてはゆったりして肩・ひざを覆うものを着用すること、「透けて見えるもの、小さいもの」の着用禁止が通達には含まれる。なお、国際基準で4つ星以上の施設や専用クラブに対しては、「一般の秩序や文明的なふるまいの範囲内で通常の西洋風の水着の着用が認められる」。水泳施設の経営者や所有者は、新たな指導指針を明示しなくてはならない。なお、この通達の適用の仕組みや、違反した際の罰則については明らかでない。

 なお、シリアでは5つ星ホテルのような施設を除けばビキニの着用は一般的でなく、今般の通達を待つまでもなく社会的習慣として公共の海水浴場などでは「つつましやかな」雰囲気が一般的である。

評価

 シリアの現体制は、より保守的で宗教(=イスラーム)の役割の強化を志向していると考えられるが、すでにそれに沿った形での暴行・脅迫も発生している。最近では、ナイトクラブやライブスタジオなどが「逸脱分子による個別的な襲撃」を受け、襲撃犯の一部は当局の取り締まりを受けている。その一方で、SNS上では治安部隊の人員による飲酒や歌舞音曲を伴う施設への襲撃・暴行についての情報がたびたび拡散されている。

 観光・娯楽施設について、地元のムスリムと外国人観光客とを「分離」して両者の関係の管理を図る政策は、中東諸国では珍しいことではない。今般の通達も、飲酒、音楽、服装(特に水着)のような公共の秩序についての問題で指針を示し、本番を迎える海水浴シーズンに備えるものととれないこともないだろう。しかし、今般の通達のように公権力の行使を通じて服装や振る舞いを「イスラーム的により正しい」ものへと制御することは、シリアでは一般的ではない。これについては、飲酒・音楽・服装などの「望ましくない行為」が正体不明の個人・集団から襲撃を受ける事例が発生すること自体が重大な威嚇効果を持つことから、今後も当局による可視的な法規制や摘発ではなく、(イスラーム的に)保守の潮流を支持する社会的圧力により、「望ましくない」行為が徐々に排斥される趨勢が強まるだろう。

(特任研究員 髙岡 豊)

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