№22 イラン:ハーメネイー最高指導者が米国の提案を批判
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/06/06
2025年6月4日、ハーメネイー最高指導者はホメイニー師の逝去記念日に演説し、「国家の独立」とはイランの国家・国民が自分の足で立つことであり、米国をはじめとする列強の「青信号」を待ったり「赤信号」を心配したりしてはならないと述べ、さらに最近の核交渉で米国が示した提案は、故ホメイニー師が重視していた「我々にはできる」の精神に真っ向から対立するものであると批判した。
ハーメネイー師はまた、「原子力産業」は原子力エネルギーだけに関わるものではなく、あらゆる産業の発展につながる「産業の母」であり、ウラン濃縮活動はその「鍵」だと位置づけたうえで、濃縮能力をもたないような原子力産業は無意味であり、濃縮ウランを米国に頼ることは、同国への依存を生むと指摘した。
同師はそのうえで、「無礼千万にして厚顔無恥な米国の頭領たちは、様々な言葉を用いて、こうした(米国に依存せよとの)要求を繰り返している。彼らはイランの発展に反対しているのである」と述べ、「やかましく、思慮のない米国政府の戯言に対する我々の答えは明らかである」と結論付けた。
4日のハーメネイー師の演説後、軍統合参謀本部は声明で、「軍は‥‥いかなる時期、いかなるレベルのものであれ、敵によるあらゆる種類の悪事・戦略的過ちに対抗する準備ができている」と表明した。
評価
5月31日、オマーンのブーサイーディー外相がイランを訪問し、米国側の提案をアラーグチー外相に手交したが、その内容をめぐって、匿名のイラン人外交官が、米国の提案はイランの濃縮の権利を認めるものではないとして、イランは米国の提案を拒否する見込みだと述べる(6月2日付ロイター通信)など、交渉の行方に悲観的な空気が流れていた。イラン国内メディアからも、「米国の提案には善意のかけらも見られなかった」(6月2日付「ケイハーン」紙)など、反発の声が上がっていた。
こうした中でのハーメネイー最高指導者の4日の発言は、米国の提案を完全に拒絶する内容だったと言える。
他方、アラーグチー外相は、4日付のレバノンの「アル・マナール」とのインタビューで、「米国の提案は検討中であり、適切な時期に、イランの国益に基づいて回答することになるだろう」と述べたうえで、「外交の窓はいまだ開かれており、交渉を通じた解決方法を得る実際の可能性は存在すると信じている」と述べた。またシャムハーニー最高指導者政治顧問も、同じく4日付のレバノンの「アル・マヤーディーン」とのインタビューで、米国の提案はプロフェッショナルなものではないと指摘したうえで、イランは新たな提案を準備しているところだと述べるなど、イランは米国との交渉を継続する方針であることを明らかにしている。
これに対し、トランプ米大統領は5日付の「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、イランは核兵器について速やかに決断を下さなければならないとしたうえで、「我々はごく短期間のうちに、明確な答えが出ることを必要としている」と述べ、交渉継続によって決断を引き延ばすイランの戦術に対して警告を発した。
他方、トランプ大統領は同じ投稿で、ロシアのプーチン大統領との電話会談のなかで、プーチン氏がイランとの交渉に参加する可能性を示唆したことを明らかにした上で、イランが速やかに決断を下すことに同氏が協力してくれることに期待を表明している。ロシア大統領報道官も、プーチン大統領がイランとの近しい関係を利用して、イランと米国の交渉の手助けをする用意があることを確認し、ジャラーリー駐ロシア・イラン大使は、近くプーチン大統領がイランを訪問するだろうと述べるなど、ロシアを巻き込んだ米国とイランとの交渉妥結の可能性も残っている。
3日付「AXIOS」 の報道によると、米国のウィトコフ中東特使はイランに対して「地域濃縮コンソーシアム」を提案したとされる。それによると、このコンソーシアムが地域諸国で使用される民生用のウラン燃料をIAEAの監視の下で提供することになるが、その設立場所については明記されていなかったという。同報道は、イランは自国内でウラン濃縮が行われるのであれば、地域諸国を巻き込んだウラン濃縮コンソーシアムの設立は考慮に値するものの、イラン国外で濃縮活動が行われるのであれば、交渉が成功する見込みはないとするイラン高官の発言を伝えている。4日のハーメネイー最高指導者の発言と合わせ、コンソーシアムの設立場所が交渉の行方を左右するように思われる。
(主任研究員 斎藤 正道)
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