№24 イラン:イスラエルがイラン各地を攻撃
- 2025湾岸・アラビア半島地域イラン
- 公開日:2025/06/13
イラン時間2025年6月13日3時20分頃、テヘランの複数の地域及びナタンズ核施設をはじめとするイラン西部・中央部にある核施設や軍事施設がイスラエルの攻撃を受けた。テヘランへの攻撃では、特に北東部の住宅地が狙われ、複数の報道によると、バーゲリー統合参謀本部長、サラーミー革命防衛隊総司令官、ラシード・ハータモルアンビヤー中央基地司令官、アッバーシー元原子力庁長官、テヘラーンチー・アーザード大学総裁が殺害された。国家安全保障最高評議会(SNSC)に近いとされる「ヌール・ニューズ」は、シャムハーニー最高指導者政治顧問(前SNSC書記)が重症を負ったと報じ、在外ペルシア語メディア「イラン・インターナショナル」は同顧問が死亡したと伝えた。
バーゲリー氏は、イラン軍を構成する革命防衛隊及び正規軍を統括する「統合参謀本部」のトップを2016年から務めてきた人物で、サラーミー氏は2019年から精鋭部隊の革命防衛隊の総司令官を務めてきた人物であり、イラン軍のトップ2名と言える。また、ラシード氏が司令官を務めていた「ハータモルアンビヤー中央基地」は軍統合参謀本部のもとで、軍の作戦立案等を担う部署とされている。アッバーシー氏は2010年11月に、イスラエルによるものとされる一連の核科学者に対する暗殺を生き延び、その翌年2月に原子力庁長官に任命された核物理学者である。テヘラーンチー氏は、レーザー科学や光工学の専門家とされるが、軍部や核技術との関連は不明である。
被害者の中には民間人も含まれていると報じられており、テヘラン北東部ナールマク地区の住宅街への攻撃では5名が死亡、20名が負傷したという。
イラン西部・中央部にある核・軍事施設への攻撃では、ナタンズ核施設が攻撃されたほか、パールチーン、ホンダーブ、アラーク、ゴム、ホッラマバード、ハメダーン、ガスレシーリーン、ピーラーンシャフル、ケルマンシャー、タブリーズなどで爆発音が聞かれたと伝えられている。タブリーズでは、攻撃により2名が死亡したと報じられているが、その他の地域の被害状況はこれまでのところつまびらかではない。
今回の攻撃を受け、ハーメネイー最高指導者は声明で、「シオニスト体制(イスラエル)」は「厳しい罰を覚悟しなければならない」と表明した。また、革命防衛隊の広報は声明で、イスラエルを「後悔させる」ような報復を誓った。統合参謀本部報道官も、イスラエル及び米国は「極めて重い罰金」を支払うことになるだろうと述べた。
評価
イラン軍のトップ2名がイスラエルの攻撃で死亡したことは、2024年に相次いだヒズブッラーやハマースの指導者たちの殺害や、2020年11月に核開発を担ってきたファフリーザーデ国防軍需省研究刷新機構長官がイスラエルの遠隔兵器によるものとされる攻撃で殺害された事件以上の「心理的ショック」を、イラン体制に与えることになるだろう。
しかし、このようなショックから、イランが米国やイスラエルに対して核問題で妥協的姿勢を示すことになるかどうかは疑問である。むしろ、イスラエルに対する十分な抑止力をもつために、数年前からイラン国内でくすぶってきた核武装論が強まる可能性がある。民間人の犠牲も伝えられており、イラン体制の反米・反イスラエル主義に冷淡な一般市民の間でも、ナショナリスティックな感情が沸き起こることが考えられる。またその延長線上で、宗教的イデオロギー、特にアフマディーネジャード元大統領が唱えてきた「救世主待望論」が国内で流行し、それが危険な暴発を引き起こす可能性も排除できないように思われる。
(主任研究員 斎藤 正道)
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